子のない夫婦…体の弱かった妻が急死
佐藤さん(仮名)という40代の男性が、数カ月前に亡くなった奥様の相続について相談に見えました。亡くなった妻名義の財産のことで、妻の弟とトラブルになってしまったというのです。
佐藤さんと妻には子がなく、妻の両親もすでに亡くなっていますが、妻には兄と弟がいます。そのため、妻の相続人は、夫である佐藤さんと、亡くなった妻のきょうだいの合計3人です。
佐藤さんと妻は、同じ会社に勤務する同僚でしたが、妻は結婚をきっかけに退職し、その後はずっと専業主婦でした。
佐藤さんの勤務先は中堅企業で、とびぬけて給料が高いわけではありません。しかし、佐藤さんの妻はやりくり上手で、しっかりと預金を積み上げました。
平穏な毎日を送り、老後の資産形成も着実と進んでいた佐藤さん夫婦ですが、妻の死がすべてを中断してしまいました。
「風邪から肺炎になり、あっという間のことでした」
専業主婦の妻の財産は、もともと「夫の給料」が原資
妻の死に大変なショックを受けた佐藤さんですが、やるべき事務的な手続きはどんどん押し寄せてきます。相続手続きもそのひとつでした。
「妻名義の財産について、妻の弟と揉めているのです」
佐藤さん夫妻には子どもがいないことから、相続人は夫である佐藤さんと、妻の兄・弟の3人です。法定相続分通りに遺産を分割すると、佐藤さんが4分の3、妻の兄弟は4分の1をそれぞれ分けるので、8分の1ずつになります。
しかし、問題は妻の財産の中身でした。妻の財産は、およそ4,000万円の自宅マンションの名義が半分、あとは生活費を元手に積み上げた、約2,000万円の預貯金です。
しかし、これらは佐藤さんが渡した生活費が原資となっています。実際には名義預金といえる状態です。
また、マンションは名義こそ共有ですが、ローンを引いていたのは佐藤さん単独で、佐藤さんだけが借金を背負っている状態です。
「もとをただせば、妻名義の財産の出どころは私の給料です。本来、妻の兄弟にはかかわりのない資産ですし、渡す義理もないはずです。これまで交流があったわけでもなく、妻がいなくなればただの他人なわけですよ」
義弟、「法定相続分通り相続する」と譲らず…
佐藤さんの妻は兄弟と疎遠な状態でした。実際、佐藤さんも冠婚葬祭で数回顔を合わせたきりです。とはいえ、佐藤さんはそれぞれに連絡を取って葬儀に呼び、相続については、電話で話したり、自宅に訪問したりして、事情を説明して回りました。
「義兄のほうは、割とすぐ話がつきました。事情を説明したら、30万円のハンコ代でいいといってくれたんです」
ところが、義弟は頑なでした。「法定相続分通り8分の1を相続する」と主張して譲りません。
「妻の財産はもともと私のお金です。マンションはまだローンが残っています。これまで没交渉だったのに、相続権があるとわかったとたん、要求を繰り返す義弟にはウンザリです。どうにかして支払わずにすませる方法はないのでしょうか?」
義弟は佐藤さんの説明に納得できないとして、弁護士まで立ててきました。それだけでなく、請求金額は弁護士によってさまざまな理由を付けられ、本来の法定相続分より高く見積もられたものとなっていたのです。
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資金の流れがわかる書類を揃え、事情説明に注力
いくら「名義預金状態」だとしても、妻名義の財産は妻のものとして認められているため、真っ向から戦うには分が悪く、裁判したところで佐藤さんが勝てる見込みはありません。
そのため筆者は、なんとか支払う額を減らすため、妻の資産状況とともに、マンション購入とローン返済の状況がわかる書類を揃えたほか、妻の預貯金の流れが見えるように通帳類を整理したうえで、交渉に臨むことにしました。
マンションは夫婦の共有名義であるため、妻の資産にも含まれます。法的には、ローンは相続財産とは別なのですが、実態としては含めて考えるべきだとしたうえで、妻の預貯金の名義預金的な性質を主張したところ、最終的には義弟が折れ、法定相続分よりもかなり低額な金額で合意を取り付けることができました。
しかし、法的にはいずれも認めづらい問題であることは確かです。今回はたまたま当事者が納得してくれましたが、場合によっては、もっと面倒な事態になった可能性は十分あります。
相続では「夫婦間の財産分割・精算」はできない
今回の問題の根本原因は、夫が稼いだお金がすべて妻側に流れ込んでいることでした。
日本には、夫の給料を妻が管理している家庭が多くあります。つまり佐藤さんのケースは、同様の家計管理をしている家庭なら、どこでも起こり得るトラブルなのです。
夫婦間で財産を分割し、清算する制度は離婚しかありません。離婚の際には、それぞれが稼いだ分を分割する制度が定められています。
しかし、相続の場合においては、夫婦間によって積み上げられた財産である点も、法定相続分で評価されてしまい、それ以外の制度はありません。遺言書等がない場合は、あくまで法定相続分によって整理されるため、配偶者であっても法定相続分以上には相続できないのです。
万一の事態を考え、資産の整理や管理にも、慎重な対応が求められるといえます。
(※登場人物の名前は仮名です。守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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