〈日本の相続システムの怪〉重たい課税、短い申告期限のみならず…不動産の継承に「多額の現金」が必要になる、唖然の事情【弁護士が解説】

〈日本の相続システムの怪〉重たい課税、短い申告期限のみならず…不動産の継承に「多額の現金」が必要になる、唖然の事情【弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

超高齢社会となり、相続の発生が増えてきた日本ですが、同時に相続トラブルも多発しています。原因のひとつが「不動産の承継」です。親世代から引き継ぐ不動産が、なぜトラブルの根本原因となるのでしょうか。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

不動産の相続の大問題…「代償金」をどうすれば?

相続トラブルが起こる大きな原因として、まず「法律が定めた法定相続分通りに、遺産を分けることが難しい」ことが挙げられるといえます。とくに不動産が絡むと大変です。不動産はケーキのように切り分けることができません。また「共有」という形で所有していると、管理等を巡ってトラブルが起こりやすく、その点も対処が難しくなる原因です。

 

結局、不動産を分けるためには、代わりになるお金=「代償金」が必要になってきます。

 

もっとも、代償金が準備できるなら問題はありません。「代償金がない→綺麗に分けられない→不均衡が生じる→相続で揉めて〈争続〉になる」というのが、一般的な相続トラブルの流れなのです。もちろん、ここに親族の関係性や過去のできごと、親の介護の問題等が幾重にも重なることで、事態は一層複雑化します。

 

そして「死亡後10ヵ月以内に相続税申告を行い、相続税を収めなければならない」という現行の相続税の制度も、争いを起こす引き金になっていると思われます。

 

第一に、相続税が相当に高額であること。とくに関東近郊等では、保有している不動産の土地値が想像以上に上昇しており、相続税を払うには、土地を売却するしかないケースが非常に多いのです。実際には、控除額や相続時に使える特例などもありますが、取得金額が5000万円以下で20%、取得金額が1億円以下で30%等、相当高額な税率となっていることには変わりありません。

 

第二に、相続税は、死亡後10ヵ月以内に相続税申告+納税を行わなければならないこと。その際の納税も現金が基本です。物納などは手続が複雑で、事実上利用が難しいといえます。そのため、相続税を払う現金が準備できない場合、やはり、相続財産の不動産を売却しなければなりません。しかし、実際問題、相続財産の不動産売却は容易ではなく、ここが一層難しいところなのです。

 

相続の相談に乗っていると「不動産を残しておけば問題ないでしょう? 売却して税金を納め、残りは子どもたちで好きに分ければいいから…」とおっしゃる方が多くいるのですが、そのような楽観的な見通しでは、遺された相続人の方々が苦しむことになります。

 

不動産を売却するには、不動産の所有者を単一の相続人にしておく必要があり、遺言書等の対策がなければ、遺産分割協議をまとめなければなりません。もっとも、不動産を分けるには代償金が必要になることが多く、10ヵ月以内の相続税申告期限までにまとめるとのは簡単ではありません。

 

その結果、税金の納付期限までに不動産を売却することも、遺産分割協議をまとめることも難しく、相続人固有の財産の預貯金を取り崩して相続税を支払わざるを得ないという、当事者からしたら、まさに唖然とする状況になりがちなのです。

 

相続税制度は「親の財産を相続するには、まず相続するためのお金が必要になる」という、摩訶不思議な構造になってしまっています。

 

そして、相続人がこの事実に気づき始めるあたりで、相続人等の対立が顕著になってきます。10ヵ月以内には相続税申告・納税しなければならないのに、納税期限までに不動産を綺麗に分けることは難しい。にもかかわらず、先に相続税を払う金銭が必要になる。ある相続人は支払いが可能だが、ある相続人は生活が苦しくとても払えない…といった状況も鮮明になります。

 

また、相続手続を主導している側は、全体の相続人が納税まで踏まえて落ち着きどころを考えて案を出すものの、若干の不平等が生じたりします。その不平等も、全体財産や手続を主導している側には小さい金額に見えますが、分配を要求している側からすると、想像を超えるほど重いものだったりします。

 

このように、ただでさえ難しい遺産分割協議に「相続税+申告期限10ヵ月」という制約がかかってくると、相続人らは心穏やかではいられず、お互いにいらだちをぶつけ合ってしまう…ということも発生するのです。

相続手続には「コスト」がかかることを知っておく

細かな相続税対策の話については、本記事では今回割愛しますが、相続税対策の第一歩は、

 

①相続手続に発生するコスト、手続費用と相続税の金額を理解すること

②その金額を「相続財産」以外からもってくるように資産を工夫しておくこと

 

この2点につきます。

 

①の相続手続のコストですが、登記手続、税務申告のための税理士費用や相続税と、かなり多額の費用が発生します。しかし、この事実を知らない方は本当に多いのです。「相続するためには、先にお金がかかる」ことを、少しでも知っていただけたらと思います。

 

②の相続財産以外に相続人にお金を移動しておくスキームは、生前贈与か保険の利用等が考えられます。生前贈与は短期間に行うと高額の贈与税が発生してしまうので、かなり長期的に計画しなければなりません。保険金については、相続財産と別途の財産として捉えるという確たる裁判例がありますので、相続対策について保険利用というのは理にかなっていると思います。もちろん、単純に保険営業マンのセールストークにのせられて不要な保険に入ってしまっては本末転倒ですから、①の相続コストとの兼ね合いで、こちらも事前に十分な準備をしておく必要があるといえます。

 

「相続するには、先にお金がかかる」は、本当に重要な情報です。相続税との兼ね合いで、揉める「争続」になってしまう現状について、少しでも多くの方に知ってもらえたらと思います。

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

 

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