4――年収推計額と家事活動の収入換算額の合算値~子育て期は女性が男性を約80万円上回る
先の有償労働(給与収入)と無償労働(家事活動の収入換算額)の値を合算すると、全体で男性では年間573.9万円、女性では567.8万円(男性より▲6.1万円)となる([図表4])。
労働力率が比較的高い20歳代から60歳代3に注目すると、男性では50歳代後半に向けて増加する一方、女性では20歳代から30歳代にかけて増えた後、50歳代までおおむね横ばいで推移する。
男女差を見ると、20歳代から40歳代前半までは女性が(差のひらく30歳代では女性が+約80万円)、40歳代後半から50歳代までは男性が(50歳代で男性が+約50万円)、60歳代では再び女性の方が多くなっている(60歳代後半で30歳代と同様に女性が+約80万円)。
つまり、冒頭で「稼ぎが少ない方が家事や育児をすべき」との声に触れたが、おおむねフルタイムで働いている男女について、有償労働(給与収入)と家事や育児等の無償労働の収入換算値をあわせると、子育て中の女性も多い年代では、女性の方が男性より約80万円、働いていることになる。
一方、50歳代では男性の働きが大きいことになるが、先にも触れたが、正規雇用者の多い男性では管理職比率が高まり、給与収入が伸びやすい年代である一方、非正規雇用者の多い女性では給与収入が伸びにくい上、子育てに手のかかる時期を過ぎて家事活動の収入換算額が減ることによる。
一方で、60歳代になると、男性では働き方が変わり(退職後の再雇用など)給与収入が減ることで、再び女性の働きが男性を上回ることになる。
「そもそも無償労働と有償労働は質が違う」「家庭によって状況は様々であり、得意な方がやればいい」など様々な考え方があるだろう。
また、本稿の推計は、家事活動や働き方に多大な影響を与える同居家族の状況(配偶者や子の有無等)を考慮せずに、単純に全体、あるいは各年代の平均値を合算したものであり、推計として粗い部分もある。
一方で、現在のところ、特に子育て期の年代では家事・育児に対して強い負担を感じている女性は多く4、「稼ぎが少ないから」と言われると言葉を返しにくい心情は容易に想像できる。
このような中で、給与収入に家事や育児の対価をあわせれば、子育て期の年代においては、実は女性の収入が男性を上回る可能性があるという状況は、男性にも女性にも何らかの気づきを与えるのではないだろうか。
3 総務省「令和4年労働力調査」によると、労働力率は15~19歳19.7%、20~24歳代74.6%、25~34歳89.8%、35~44
歳88.4%、45~54歳88.4%、55~64歳80.1%、65~69歳52.0%、70~74歳33.9%、75歳以上11.0%。
4 久我尚子「少子化進行に対する意識と政策への期待(1)」(ニッセイ基礎研レポート、2023/4/27)にて、少子化の要因について尋ねた調査結果において、「子育てによる身体的・精神的負担が大きすぎることが原因だ」という問いに対して、そう思う割合は20~50歳代の男性ではいずれも半数を下回る一方、女性ではいずれも半数を超え、特に30歳代(66.0%)で目立って高くなっていた。