無償労働を考慮した男女の収入比較-子育て期は女性が男性を約80万円上回る、専業主婦のピーク時の年収は約500万円

無償労働を考慮した男女の収入比較-子育て期は女性が男性を約80万円上回る、専業主婦のピーク時の年収は約500万円
(写真はイメージです/PIXTA)

今や夫婦のいる勤労者世帯の約7割が「共働き世帯」ですが、家事の負担は妻に偏る家庭が多いようです。その原因として「女性は家庭を守るべき」という固定概念や、「稼ぎが少ないほうが家事をすべき」といった意見が挙げられます。そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が、一般労働者の有償労働(給与収入)と無償労働(家事活動の収入換算額)の推計値を合算し、年代による男女の違いを分析することで、子育てに関わる様々な負担感へどう対応すべきかについて解説します。

4――年収推計額と家事活動の収入換算額の合算値~子育て期は女性が男性を約80万円上回る

先の有償労働(給与収入)と無償労働(家事活動の収入換算額)の値を合算すると、全体で男性では年間573.9万円、女性では567.8万円(男性より▲6.1万円)となる([図表4])。

 

労働力率が比較的高い20歳代から60歳代3に注目すると、男性では50歳代後半に向けて増加する一方、女性では20歳代から30歳代にかけて増えた後、50歳代までおおむね横ばいで推移する。

 

[図表4]性年代別に見た給与収入(年収)と家事活動の収入換算(年間)の合算値

 

男女差を見ると、20歳代から40歳代前半までは女性が(差のひらく30歳代では女性が+約80万円)、40歳代後半から50歳代までは男性が(50歳代で男性が+約50万円)、60歳代では再び女性の方が多くなっている(60歳代後半で30歳代と同様に女性が+約80万円)。

 

つまり、冒頭で「稼ぎが少ない方が家事や育児をすべき」との声に触れたが、おおむねフルタイムで働いている男女について、有償労働(給与収入)と家事や育児等の無償労働の収入換算値をあわせると、子育て中の女性も多い年代では、女性の方が男性より約80万円、働いていることになる。

 

一方、50歳代では男性の働きが大きいことになるが、先にも触れたが、正規雇用者の多い男性では管理職比率が高まり、給与収入が伸びやすい年代である一方、非正規雇用者の多い女性では給与収入が伸びにくい上、子育てに手のかかる時期を過ぎて家事活動の収入換算額が減ることによる。

 

一方で、60歳代になると、男性では働き方が変わり(退職後の再雇用など)給与収入が減ることで、再び女性の働きが男性を上回ることになる。

 

「そもそも無償労働と有償労働は質が違う」「家庭によって状況は様々であり、得意な方がやればいい」など様々な考え方があるだろう。

 

また、本稿の推計は、家事活動や働き方に多大な影響を与える同居家族の状況(配偶者や子の有無等)を考慮せずに、単純に全体、あるいは各年代の平均値を合算したものであり、推計として粗い部分もある。

 

一方で、現在のところ、特に子育て期の年代では家事・育児に対して強い負担を感じている女性は多く4、「稼ぎが少ないから」と言われると言葉を返しにくい心情は容易に想像できる。

 

このような中で、給与収入に家事や育児の対価をあわせれば、子育て期の年代においては、実は女性の収入が男性を上回る可能性があるという状況は、男性にも女性にも何らかの気づきを与えるのではないだろうか。

 


3 総務省「令和4年労働力調査」によると、労働力率は15~19歳19.7%、20~24歳代74.6%、25~34歳89.8%、35~44  

歳88.4%、45~54歳88.4%、55~64歳80.1%、65~69歳52.0%、70~74歳33.9%、75歳以上11.0%。

4 久我尚子「少子化進行に対する意識と政策への期待(1)」(ニッセイ基礎研レポート、2023/4/27)にて、少子化の要因について尋ねた調査結果において、「子育てによる身体的・精神的負担が大きすぎることが原因だ」という問いに対して、そう思う割合は20~50歳代の男性ではいずれも半数を下回る一方、女性ではいずれも半数を超え、特に30歳代(66.0%)で目立って高くなっていた。

次ページ5――補足~就業状態や配偶関係を考慮した家事活動の収入換算額~専業主婦のピーク時は約500万円

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年11月21日に公開したレポートを転載したものです。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録