(※写真はイメージです/PIXTA)

かつて“世界の警察”といわれた米国ですが、近年そのプレゼンスは急激に低下しています。中間層の没落に民主・共和両党の求心力低下、議会の機能不全など、政治・経済の面で「米国は衰弱している」といった声が聞かれるようになりました。しかし、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は「世界のなかでも米国経済の強さは際立っている」といいます。いったいなぜか、詳しくみていきましょう。

「ボルカーショック」と今回の利上げの違い

米国長期金利が一時5%へと急上昇したことが、市場参加者の懸念要因になっている。物価上昇率が顕著に低下しているなかでの名目金利の急上昇により、実質金利は15年ぶりの高水準に押し上げられた。実質金利上昇は株式市場やリスクテイクにとって最大級の懸念要因であり、市場が不安定化するのは当然であろう。

 

このように引き上げられたFF金利水準に長期金利が後追いする形で上昇し、逆イールド状態がフラット化する現象というのは、1980年のボルカーショック以来初めてのことである。

 

[図表2]で明らかなように、これまでの長短金利のフラット化は、金融引き締めによる景気悪化で短期金利が引き下げられることで実現してきた。この特異の長期金利の上昇はなにを意味しているのだろうか。

 

ボルカー当時も今回も、中央銀行の狙いがわからなくなった市場が中央銀行のタカ派度の強さに追随する形で、長期金利が上昇したものと考えられよう。どちらの場合も市場は中央銀行の真意を探しあぐねていたのである。

 

出所:ブルームバーグ、武者リサーチ
[図表2]10年国債利回りとFF金利の推移 出所:ブルームバーグ、武者リサーチ

 

決定的に異なる「インフレの深刻さ」

ただしボルカー当時と今回で決定的に異なるのは、インフレの深刻さである。10%超のインフレが2年以上にわたって続いたボルカー時代に対して、今回のCPI上昇は限定的であった。

 

2022年6月のピーク9.1%から今年の9月は3.7%に急低下した。FRBがもっとも注目する平均時給(AHE)は9月は前年比では4.2%だが、3ヵ月前比では3.3%、前月比では2.5%(いずれも年率換算)と大きく鎮静化している。

 

また[図表3]に見るように、金融市場が織り込んでいる期待インフレ率(名目10年債利回り-物価連動債利回り)は、ここ2年間の物価乱高下にほとんど影響されず、2.5%プラスマイナス0.5%と安定して推移している。

 

つまり市場は、この間のインフレはサプライチェーンの混乱やウクライナ戦争による一時的なものとみなし続け、それはほぼ正しかったのである。この点で当社の観測は一貫して正しかった。

 

出所:ブルームバーグ、武者リサーチ
[図表3]インフレと名目・実質10年国債利回り推移 出所:ブルームバーグ、武者リサーチ

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年10月25日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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