(※写真はイメージです/PIXTA)

かつて“世界の警察”といわれた米国ですが、近年そのプレゼンスは急激に低下しています。中間層の没落に民主・共和両党の求心力低下、議会の機能不全など、政治・経済の面で「米国は衰弱している」といった声が聞かれるようになりました。しかし、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は「世界のなかでも米国経済の強さは際立っている」といいます。いったいなぜか、詳しくみていきましょう。

FRBは“五里霧中”…「長期金利上昇」は良い?悪い?

ならばなぜFRBはそこまで利上げにこだわるのか。これは、昨年来の500ベーシスの利上げに実体経済がまったく反応しない、その強さがなぜなのかわからないからであろう。

 

FRBは持続可能な中立的金利水準(自然利子率)の見当がつかなくなり、よってData Dependent(データ次第)と手探り状態なのである。パウエル議長が8月のジャクソンホールでのスピーチで「我々は曇り空のもと星を頼りに航海している」と述べたのは、まさしくこのことを指している。

 

仮に技術革新とイエレン財務長官が主唱するMSSE(現代サプライサイド経済学)、高圧経済政策により、米国経済の潜在成長率が引き上げられているとすれば、当然妥当な中立金利は高くなり、金利上昇圧力が強まる。

 

このように現在の米国長期金利の上昇は、潜在成長率の上昇に裏付けられた良い上昇か、はたまたインフレ圧力や米国財政に対する信認の低下等による悪い上昇なのか。またそれらは一時的か、持続性があるのか。正解がわからないなかで当局も市場も揺れ動いているのである。

 

現時点では不確かだが、当社はあえて米国長期金利の上昇は良い金利上昇であり、一定の持続性があると考えたい。

 

前述のように、インフレはほぼコントロール下に入ったといえる。また財政赤字によるドル信認の低下やクラウディングアウトなどのネガティブな要因は、現在のドル高進行や、米国民間の潤沢な貯蓄と積極的米国国債投資(MMFなどを通した)などの現実とは整合的でない(図表4参照)。インフレと金利の不確実性は数ヵ月から半年で消えていくだろう。

 

出所:FRB、武者リサーチ
[図表4]投資主体別米国国債保有比率推移出所:FRB、武者リサーチ

 

となると限定的ではあっても、利下げが視野に入ってくる。利下げには供給力投資を強めインフレ圧力を引き下げるという側面がある。住宅価格抑制には、利下げによる住宅供給増加というチャンネルが有効である。

 

またMSSE理論に基づけば、賃金抑制には利下げが設備投資増加を通して労働代替・賃金下落圧力を生むというチャンネルにより有効であることが想定される。

 

現在の米国では、過剰供給力が放置された1930年時代の大恐慌時と異なり、新産業革命による生産性の向上(=供給力の増加)が旺盛な需要創造でカバーされるという好循環が起き始めている、と考えられる。

 

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次ページ経済の強さが「米国悲観論」を打ち負かす可能性

※本記事は、武者リサーチが2023年10月25日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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