(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年上期、中国の自動車輸出台数は日本を抜き「世界一」となりました。これに対して米国やフランス、トルコなど世界各国が「対中ブロック」を仕掛けるなか、ドイツだけは各国の「対中政策」を批判しています。世界の潮流を無視してドイツが「親中」を貫くのはなぜか、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏が解説します。

ユーロ圏の「対中貿易」赤字急拡大

これまでユーロ圏は対中ビジネスにおいて、米国、日本、韓国等他国に比べて大きな恩恵を受けてきた。

 

出所:ブルームバーグ、武者リサーチ
[図表1]中国の相手国別輸出・輸入推移 出所:ブルームバーグ、武者リサーチ

 

[図表1]は中国の国別輸入額推移であるが、過去10年ほどのあいだ、対日本、対韓国、対米国がほとんど成長しないなかで、対ユーロ圏輸入だけが6~7割増とシェアを高めてきた。

 

しかし中国企業は着実に技術キャッチアップを進め競争力を強化し、欧州企業の地盤を切り崩してきた。中国の対欧州輸出は欧州からの輸入以上のスピードで拡大し、EUの対中貿易赤字は2022年396億ユーロと、コロナパンデミック前の2019年比倍増となった[図表2]。

 

出所:ユーロスタット
[図表2]EUの対中貿易赤字推移(FT) 出所:ユーロスタット

 

特にドイツは、メルケル首相が16年の在任期間中12回も訪中するなど、先進国のなかでも最も中国との関係強化を進めてきた。

 

背景にある中国の「バッテリー」「半導体」輸出急増

しかし対中貿易収支が2022年に赤字に転ずるなど、変調が現れている。貿易変調の最大の理由は、EV用主体のバッテリーと半導体(太陽光パネル、パワー半導体等)の急増である。

 

中国の対ドイツバッテリー輸出は2020年16億ドル、21年37億ドル、22年80億ドル、対ドイツ半導体輸出は2020年14億ドル、21年18億ドル、22年31億ドルと倍々ゲームで増加し始めた(JETRO「地域分析レポート」)。クリーンエネルギーやEVにシフトすればするほど自動的に対中赤字が増加する仕組みがビルトインされている。

 

加えて中国EVの欧州急進出により欧州自動車企業は地元でシェアを奪われるリスクが高まっている。中国市場で高成長を謳歌してきたVWなどの欧州自動車メーカーは、いまや攻守所を変えて、守る側に立たされつつあるのである[図表3]。

※ VW:Volkswagen(フォルクスワーゲン)。

 

出所:GTA(中国税関統計)
[図表3]中国からEUへのEV輸出(台数・単価)(JETROビジネス短信9.19.23) 出所:GTA(中国税関統計)

中国自動車輸出が「世界一」に…ブロックをかける米国、EU

2023年上期の中国自動車輸出台数は214万台(前年比76%増)となり、日本を抜き世界一となった。けん引役は、EVおよび民主主義国が禁輸している対ロシア向け輸出である。中国車のロシアでのシェアは2021年9%から22年37%、23年にはシェア50%を超え100万台に迫ると見られている(東洋経済オンライン財新レポート)。

 

2023年上期の世界EV(BEV+PHEV)販売台数は、前年比41%増加の616万台に達したが、内6割は中国生産車とみられる。首位BYD125万台(前年比96%増)、2位テスラ89万台(57%増)、3位VWグループ43万台、4位吉林ボルボグループ36万台、5位上海汽車集団(SAIC)グループ32万台と、すべて中国生産を中心としている企業である。

 

この中国産EVの攻勢に対して米国はIRA(インフレ抑制法)により中国生産車を補助金の対象から外すことでブロックをかけた。さらにフォードが計画していた世界最大手の中国CATLとの協力によるミシガン州EVバッテリー工場の建設は、ワシントンからの圧力により一時停止に追い込まれた。

 

遅ればせながらEUも、中国の自動車産業に対して不当な補助金が支給されていないかの調査をすると発表した。また累積炭素排出履歴(炭素国境調整メカニズム活用)を規制に盛り込むことを考えているといわれる。

 

トルコは中国のEVに40%の懲罰的関税賦課。フランスは累積炭素排出履歴を補助金受給資格に盛り込み、事実上ヨーロッパ製のEVにのみに補助金を出す仕組みを打ち出した。

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年10月3日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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