ユーロ圏の「対中貿易」赤字急拡大
これまでユーロ圏は対中ビジネスにおいて、米国、日本、韓国等他国に比べて大きな恩恵を受けてきた。
[図表1]は中国の国別輸入額推移であるが、過去10年ほどのあいだ、対日本、対韓国、対米国がほとんど成長しないなかで、対ユーロ圏輸入だけが6~7割増とシェアを高めてきた。
しかし中国企業は着実に技術キャッチアップを進め競争力を強化し、欧州企業の地盤を切り崩してきた。中国の対欧州輸出は欧州からの輸入以上のスピードで拡大し、EUの対中貿易赤字は2022年396億ユーロと、コロナパンデミック前の2019年比倍増となった[図表2]。
特にドイツは、メルケル首相が16年の在任期間中12回も訪中するなど、先進国のなかでも最も中国との関係強化を進めてきた。
背景にある中国の「バッテリー」「半導体」輸出急増
しかし対中貿易収支が2022年に赤字に転ずるなど、変調が現れている。貿易変調の最大の理由は、EV用主体のバッテリーと半導体(太陽光パネル、パワー半導体等)の急増である。
中国の対ドイツバッテリー輸出は2020年16億ドル、21年37億ドル、22年80億ドル、対ドイツ半導体輸出は2020年14億ドル、21年18億ドル、22年31億ドルと倍々ゲームで増加し始めた(JETRO「地域分析レポート」)。クリーンエネルギーやEVにシフトすればするほど自動的に対中赤字が増加する仕組みがビルトインされている。
加えて中国EVの欧州急進出により欧州自動車企業は地元でシェアを奪われるリスクが高まっている。中国市場で高成長を謳歌してきたVW※などの欧州自動車メーカーは、いまや攻守所を変えて、守る側に立たされつつあるのである[図表3]。
※ VW:Volkswagen(フォルクスワーゲン)。
中国自動車輸出が「世界一」に…ブロックをかける米国、EU
2023年上期の中国自動車輸出台数は214万台(前年比76%増)となり、日本を抜き世界一となった。けん引役は、EVおよび民主主義国が禁輸している対ロシア向け輸出である。中国車のロシアでのシェアは2021年9%から22年37%、23年にはシェア50%を超え100万台に迫ると見られている(東洋経済オンライン財新レポート)。
2023年上期の世界EV(BEV+PHEV)販売台数は、前年比41%増加の616万台に達したが、内6割は中国生産車とみられる。首位BYD125万台(前年比96%増)、2位テスラ89万台(57%増)、3位VWグループ43万台、4位吉林ボルボグループ36万台、5位上海汽車集団(SAIC)グループ32万台と、すべて中国生産を中心としている企業である。
この中国産EVの攻勢に対して米国はIRA(インフレ抑制法)により中国生産車を補助金の対象から外すことでブロックをかけた。さらにフォードが計画していた世界最大手の中国CATLとの協力によるミシガン州EVバッテリー工場の建設は、ワシントンからの圧力により一時停止に追い込まれた。
遅ればせながらEUも、中国の自動車産業に対して不当な補助金が支給されていないかの調査をすると発表した。また累積炭素排出履歴(炭素国境調整メカニズム活用)を規制に盛り込むことを考えているといわれる。
トルコは中国のEVに40%の懲罰的関税賦課。フランスは累積炭素排出履歴を補助金受給資格に盛り込み、事実上ヨーロッパ製のEVにのみに補助金を出す仕組みを打ち出した。
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