(写真はイメージです/PIXTA)

東京証券取引所は、2022年4月4日の新市場区分への移行に伴って設置した「経過措置」について、2025年3月以降順次終了することを決定しました。それにより、プライム市場からスタンダード市場へ審査なしで移行できる特例措置が設置されました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の森下千鶴氏が、特例措置を利用してスタンダード市場へ移行した企業177社の傾向について解説します。

■上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は約1割

[図表1]は、東証の公表資料から市場別の上場会社数と上場維持基準への適合計画を開示した企業数をまとめたものである。直近の2023年10月時点でもプライム市場上場1,658社のうち111社(全体の6.7%)、3市場合計だと3,825社のうち373社(全体の9.8%)が経過措置の適用を受けている。

 

(注)2023年10月東証公表資料を基に筆者作成。上場会社数は2023年10月20日時点(外国会社を除く) (資料)東京証券取引所『新市場区分の選択結果一覧(2022年4月3日現在)』『計画起源一覧(2023年10月16日公表)』
[図表1]各市場に占める経過措置適用企業の割合 (注)2023年10月東証公表資料を基に筆者作成。上場会社数は2023年10月20日時点(外国会社を除く)
(資料)東京証券取引所『新市場区分の選択結果一覧(2022年4月3日現在)』『計画起源一覧(2023年10月16日公表)』

 

次に、プライム市場に上場している経過措置適用企業について10月までの上場維持基準の進捗状況を確認する。

 

[図表2]は、2023年10月20日時点までに企業が開示している最新の「適合計画書」をもとに、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金の上場維持基準に対する進捗状況と計画期間である。

 

縦軸を赤枠で囲った数字は各項目のプライム市場の上場維持基準である。赤色は上場維持基準を達成した企業(適合見込みを含む)、灰色は未達の企業である。各項目の未達企業数は流通株式時価総額が76社、流通株式比率が25社、売買代金が14社あった。

 

(注)2023年10月東証公表時点で直近の「適合計画書」に記載された基準日時点の状況。 (資料)東証HP、各社開示資料から作成
[図表2]基準達成に向けた進捗状況 (注)2023年10月東証公表時点で直近の「適合計画書」に記載された基準日時点の状況。
(資料)東証HP、各社開示資料から作成

■スタンダード市場への移行を選択した企業は177社

今回の経過措置の終了時期の明確化に伴い、特例措置として市場再編前に市場第一部に所属していたプライム市場上場企業を対象に、2023年4月1日~9月29日までの6か月間は審査なしでスタンダード市場へ移行できる機会が設けられた。[図表3]は、スタンダード市場への選択申請を決議した企業数の推移について月別にまとめたものである。

 

この特例措置を利用し、スタンダード市場への移行を選択した上場企業は累計で177社あった。

 

そのうちプライム市場上場維持基準未達企業は163社、上場維持基準に適合していたがスタンダード市場への移行を決めた企業は5社、もともと上場維持基準に抵触していなかったがスタンダード市場への移行を決めた企業は9社あった。

 

(資料)東京証券取引所『市場区分の再選択一覧(2023年10月13日公表)』
[図表3]177社が10月20日にスタンダード市場へ移行 (資料)東京証券取引所『市場区分の再選択一覧(2023年10月13日公表)』

 

全ての上場維持基準に適合していながら、スタンダード市場への移行を選択した企業の主な理由は、上場維持基準への安定的な適合をあげている企業が多かった。

 

[図表4]は全ての上場維持基準に適合していながらスタンダード市場への移行を決めた企業14社について、直近の流通株式時価総額、流通株式比率、平均売買代金の平均値、中央値、最大値、最小値を集計したものである。

 

(資料)各社公表資料、東京証券取引所『市場区分の再選択一覧(2023年10月13日公表)』
[図表4]上場維持基準適合企業の項目別集計値 (資料)各社公表資料、東京証券取引所『市場区分の再選択一覧(2023年10月13日公表)』

 

各項目とも最小値は上場維持基準をわずかに上回っているのみであった。特に流通株式時価総額は中央値でも110億円と上場維持基準の100億円に接近している。

 

上場維持基準に適合しながらスタンダード市場への移行を決めた企業の多くが、株価の動向次第ではプライム市場の上場維持基準に抵触するリスクがあったことがうかがえる。

次ページ■プライム市場上場維持基準に未達だった企業163社の状況

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月25日に公開したレポートを転載したものです。

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