「年収の5倍」は古い?10倍を超える首都圏新築分譲マンション価格~それでも返済負担はバブル期の6割に止まる~

「年収の5倍」は古い?10倍を超える首都圏新築分譲マンション価格~それでも返済負担はバブル期の6割に止まる~
(写真はイメージです/PIXTA)

首都圏で新規発売された分譲マンションの平均価格はバブル期の水準を大きく超えています。しかし、住宅取得が遠のいたとは一概に言えず、年収に占める住宅ローンの返済負担率はバブル期と比較して4割程度低下していると言います。本稿では、ニッセイ基礎研究所の小林正宏氏が首都圏の新築分譲マンション価格の現況について解説します。

1.首都圏の新築分譲マンション価格と年収倍率

株式会社不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」によれば、首都圏(1都3県:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で2023年1月から8月までに新規発売された分譲マンションの平均価格は8,893 万円と90年代前半のバブル期の水準を大きく超えている。

 

3月に都心で高額の大型物件の供給があった影響が大きく、単月での価格変動が大きいため、トレンドを見るために12か月移動平均で見ても、やはりバブル期のピークの水準を大きく超えてきている(図表1)。

 

かつてバブル期には生産年齢(15~64歳)のそれ以外の年齢階層の人口に対する比率である逆従属人口指数がピークに達し、この「人口ボーナス」がバブルを牽引したという論説も散見された1が、その後の実績を見る限り、マンション価格と人口動態はあまり関係がない。

 

(出所)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」、総務省統計局「人口推計」をもとにニッセイ基礎研究所が加工作成
[図表1]首都圏のマンション価格と人口動態 (出所)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」、総務省統計局「人口推計」をもとにニッセイ基礎研究所が加工作成

 

住宅価格の年収倍率について、かつて1992年6月30日の閣議決定「生活大国5か年計画 一地球社会との共存をめざして-」において「勤労者世帯の平均年収の5倍程度」という数字が記載された。

 

バブル期から足元まで時系列で比較するため首都圏の世帯年収について一定の前提を置いて推計した結果、図表2のとおり、2021年の首都圏の新築分譲マンション価格の世帯年収2に対する倍率は10.53倍(平均価格6,260万円/世帯年収594.4万円)と、バブル期のピークであった1990年の9.34倍(平均価格6,123万円/世帯年収655.6万円)を超えている。

 

なお、世帯年収については、厚生労働省の「国民生活基礎調査」を適用したが、他の統計では違う数値となっている可能性があり3、また、「国民生活基礎調査」でも一部が推計値であることから、若干の幅を持って見る必要がある。

 

(出所)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」、厚生労働省「国民生活基礎調査」をもとにニッセイ基礎研究所が加工作成/図表2に加え、住宅金融支援機構をもとにニッセイ基礎研究所が加工作成
[図表2]首都圏新築マンションの世帯年収倍率/[図表3]首都圏マンションの返済負担率 (出所)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」、厚生労働省「国民生活基礎調査」をもとにニッセイ基礎研究所が加工作成/図表2に加え、住宅金融支援機構をもとにニッセイ基礎研究所が加工作成

 


1:例えば、「バブル、人口動態、自然災害 日本銀行金融研究所主催2011年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳」の図表10など。

 

2:世帯年収については、厚生労働省の「国民生活基礎調査 」の地域ブロックにおいて、「関東Ⅰ」が埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県となっており、不動産経済研究所の「首都圏新築分譲マンション市場動向」の「首都圏」と合致する。同調査は2020年には実施されていないため、同年については前後の平均で補間した。また、地域ブロックのデータは1996年調査からとなっているため、それ以前の期間については、以降の期間における「関東Ⅰ」の全国に対する比率の平均値を全国の数値に一律に掛けることにより遡及推計した。

 

3:例えば東京都の「都民のくらしむき」東京都生計分析調査報告(年報)でも勤労者世帯の年収が1985年まで遡ることができ、本文と同様に1996年から2022年までの平均値の倍率をそれ以前に遡及適用して首都圏の世帯年収を推計すると、世帯年収は632.6万円と推計され、年収倍率は9.69倍となる。

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月19日に公開したレポートを転載したものです。

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