今回は、企業経営を失敗させる「戦略の不整合」が起こる理由を紹介します。※本連載は、コンサルタントとして活躍する出口知史氏の著書、『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、企業の経営戦略に潜む落とし穴を見ていきます。

なぜ「誤り」だとわかっていても修正できないのか?

技術開発において逆風が吹き続けるなか、企業経営・経営者はいままでよりもいっそう正確な判断と迅速な行動が求められます。それでもやはり企業は戦略実行や判断を誤ること、誤ったとわかっていても修正が遅れてしまうことが、ままあります。

 

その失敗の理由の典型的なパターンを以下に9つ挙げました。本連載では、②海外アウトソーシング・海外移転の落とし穴までを解説しましょう。

 

①戦略の不整合

②海外アウトソーシング・海外移転の落とし穴

③成果主義の弊害

④成功体験の呪縛

⑤経営者・権力者が印象で判断する

⑥感情に引っ張られて判断ミスを繰り返す

⑦イノベーションまで待てない

⑧失敗の分析を失敗する

⑨集団浅慮・合議制の罠

積み上げてきた「時間」「こだわり」の否定は難しい

①戦略の不整合

 

企業は限られた資源(ヒト、モノ、カネ、時間など)を最大限有効に活用しなければなりません。本来は各企業固有の内部資源と、それを活かす経営戦略・技術戦略、そして外部環境の変化は、一貫して整合性がとれていなくてはなりません。

 

必然的に、なるべく競争の緩やかな市場・領域で、自社の得意技に資源を集中して戦うべきなのですが、実態としてそうはならないことがあります。

 

経営者や技術者のやりたいことや、会社としてやりやすいことに引っ張られたりすることなどがその理由となります。それは人間としては当たり前に抱くこだわりなのかとも思います。

 

なぜならば、意思決定ができる地位に就くまでに、不本意なことやつまらないことも含めて、何十年もこつこつと色んなことを積み上げてきた時間があるわけです。

 

ずっと「俺はこうすべきだ。いつかやるぞ」と思っていたことが、いざやれるようになった時に「あ、もう時代が変わっているから意味がないや。他のことをやらなければ」というふうには、なかなか切り替えられないのです。

 

例えば、モジュール化(製品が構成される要素の一つひとつを毎回個別に開発していては費用と時間がかかるので、なるべくいままで社内にあった要素を組み合わせて製品を創っていくこと)を進めたり、アウトソースを進めたりすることなどは、コモディティ化(汎用化が進み、区別化しにくくなり、自分たちの強みを失う)を自ら進めるようで、判断に踏み切るのは難しいです。

 

またそれ以前に、技術者としては、新しいものを考えずに既存のものを組み合わせることを中心に考えるということは、創造性が求められていないように捉えられ、感情的に“嫌”なこととなりがちです。

 

そうなるとどうしてもコストがかかってしまうほうに向かうため、そのコストを超える価値を出すよう、求められる最終的な製品・サービスのスペックがどんどん高度化していきます。

最終的に「市場にフィット」しなければ生き残れない

その追求する価値が、ユーザーの求めるニーズに合致しているうちは特に問題は起こりません。しかし、特にニーズにはなっていない機能や高度な仕様になってくると、価値すなわちそれに見合う価格が取れなくなってきて採算が合わなくなってしまいます。

 

例えば、テレビの録画機の機能を一所懸命拡充させているのにもかかわらず、ユーザーは使いこなせていません。さらにそうこうしている間にYouTubeなどネットのコンテンツが発達してテレビを見なくなる、イコール、録画機自体の存在価値が失われていくなかで、どうやって採算を考えているのか不思議です。

 

また、昨今成長を続けるアジア市場に日本企業が進出した際に苦労するのが、その市場のニーズと自社が提供する製品・サービスとマッチさせる点です。

 

よくあるのが、「文化が10年遅れているんだから、10年前の製品をいまの技術で安く作り直してみるか」といったように、既存の製品の作り直しで対応しようとします。あるいは新製品で「最高級品は日本で、一段落とした廉価版をアジアで」という発想です。

 

ところが、コストを下げるのにも限界があるために、微妙に製品・サービスが提供する価値に対して価格が高くなり、市場に受け入れられなくなります。

 

例えば新興国において、日本の自動車メーカーは、価格の面でどうしても普及する層が限定的になってしまいます。2008年にインドにある自動車会社のタタが発表した「ナノ」という乗用車は、当時、日本の軽自動車の雄であるスズキがインドで売っていた乗用車の半額(20万ルピーに対して10万ルピー。日本円で当時約28万円)でした。

 

内部なども簡素化しているようですが、外観を見ても車輪が小さかったりミラーが片方しかなかったりと、なかなか日本人には浮かぶことのない発想がありました。

 

本格的にアジア圏の新興市場に取り組むのであれば、内部資源(例えば、マインドの切り替え)、技術戦略(例えば、モジュール化でもアウトソースでも、設計のゼロベースからの見直しでも何でも、コスト削減につながるものを具現化する)、外部環境(例えば、潜在ユーザー層がどんなニーズを抱いているか)を一貫させなければなりません。その整合性がとれていないと、失敗してしまいます。

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

出口 知史

徳間書店

現役東大生を対象に著者が行っている経営戦略の講義が待望の書籍化。 今年で9年連続となる人気講義には、経営者が判断を誤る背景、成果主義の弊害、新興国進出の損得、アウトソース依存による空洞化危機、危ない経営の見抜き…

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