今回は、海外アウトソーシングによる「知識の空洞化」の問題とは何かを見ていきます。※本連載は、コンサルタントとして活躍する出口知史氏の著書、『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、企業の経営戦略に潜む落とし穴を見ていきます。

アウトソーシングによる「自社の人員削減」は避ける

まだ海外へのアウトソースや移管が始まってからそれほど年月が経っていないのであまり事例としては挙がってこないのかもしれませんが、あまりアウトソースを過剰に進めると、また別の問題が起こります。

 

指導してきた側が指導できなくなる、ひいては品質やいろいろなことにおいてコントロールできなくなってくるという問題が起こります。

 

本来は自分たちの持っている事業領域のなかで、付加価値が低い領域だけを外注委託していくはずだったのですが、安価で対応してくれている外注委託先を信頼して色々と発注しているうちに、時を経て、いつのまにか依存するようになってしまう状態です。

 

外注委託は本来、いざとなったら自分たちでできるけれどもコスト効率が悪く、かつ他人に任せられる部分を委託します。それがいつの間にか「いざとなったらできる人」が自分たちのなかにいなくなってしまう空洞化状態になると、大きなリスクを抱えます。

 

さらに、これらアウトソース先が海外である場合だけではなく、対国内においても同様の問題が起こります。

 

一般的にいわれているのが、ITやソフトウェアの業界、建設業界などがあります。ソフトウェアのエンジニアはアメリカ、インドや中国などのレベルが高く、日本はアウトソースに依存していたり、教育システムが対応していないこともあって後れをとってきました。そのため、アウトソース先に色々なことを依存してしまいます。

 

アメリカも早期からインドなどへアウトソースをしていましたが、併せて自社のシステム人員を削減するのではなく、強化もしていました。一説によると、同等規模の大手企業で比較すると、情報システムに関しては人員が日本の約10倍いるといわれていました。

 

最近では日本でも内製化(強化)に舵が切られ、スマートフォン端末に搭載されるアプリケーションの開発において、数的に限られた人材は各社が争奪戦をすることで年収が高騰していったということがあります。

 

アウトソースが進むほど「交渉力」が失われていく!?

著者は業績の悪い会社と接することが長かったのですが、製造業に共通する特徴として、設計機能が低下している事例が多かったです。

 

そのこと自体が直接業績に関係してくるわけではなく、見えにくい課題なので見過ごされることが多いのではないかと思います。

 

技術指導ができない状態になるだけならまだしも、代替の委託先がない場合には、あらゆることにおいて交渉力が失われてしまいます。一般的には発注者のほうが受注者よりも力関係が強いですが、それが逆転してしまいます。

 

例えば、今まで一式100万円でお願いしていた加工作業をある日、「150万円でないと引き受けません」と言われた時に、対抗手段がなくなってしまいます。

 

他にお願いできる会社もない。あったとしても、一式200万円だと言われてしまった。自分たちで引き取ろうにも加工には熟練した作業が必要であり、ベテラン作業者はとっくに定年退職していて、もういない。となると、言われたままの金額を受け入れざるを得なくなります。それが経済合理性にかなっているかどうかの評価もできなくなってしまっています。まさに足元をすくわれる状態です。

 

アウトソースという言葉は企業経営の記事などでよく出てくるものの、きちんと進めることはとても難しいのです。グローバル化、海外移管もしかりです。

 

トヨタ自動車など世界市場を相手に長年戦っている企業は、アウトソース先やサプライヤー(部品などの供給者)など関係他社への管理を非常にしっかりやっています。こうしたことは一朝一夕には成し得ないものです。

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

出口 知史

徳間書店

現役東大生を対象に著者が行っている経営戦略の講義が待望の書籍化。 今年で9年連続となる人気講義には、経営者が判断を誤る背景、成果主義の弊害、新興国進出の損得、アウトソース依存による空洞化危機、危ない経営の見抜き…

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