自分たちのノウハウを明文化してこなかった日本企業
事務処理の領域だけでなく、製造業においては技術や生産が関わる領域についても海外アウトソースは重要になってきています。アウトソースが重要というより、海外市場で戦うために一段のコスト削減をしなくてはならず、その手段として避けて通れないというのが正確な言いかたです。
ところが設計なども含め生産領域においては、なかなかアウトソースができないのが実態です。誰がやるかという主体者と材料だけが変わり、設計や組み立ての手順などを全部同じにしていても、委託した先の工場でなかなか正常な(日本本社が認定できるレベルの)ものができないということはよくある話です。
日本企業は長らく社内の部門間や取引先・サプライヤーとの間において、「すり合わせ」と表現される阿吽の呼吸のようなやりとりを通じて、高品質の製品を早く正確に作ることを強みにしていました。
長らく一緒に様々なことに取り組んできたことがベースとなって、色々なことを言わなくてもわかっている関係ができているからこそできることがたくさんあります。
その色々なことは、自然と暗黙知(明文化されない知識、知恵)として蓄積されてきました。それはブラックボックス(他からは中身が見えないので仕組みが理解できない)となり、台頭する中国企業や韓国企業の製品力の追随を許さない要素となっていました。
本格移管する前の「マニュアル化」を地道に実施
ところが時が流れてコスト競争力で劣勢になり、いざアウトソースを活用したり海外拠点を造って現地のサプライヤーを構成してものづくりをしようとなった時に、このブラックボックスが、第三者に委託することが困難になることの一因となってしまいました。
相手に再現性をもって同じレベルのパフォーマンスを出してもらうために色々と伝えようにも、自分たちでさえも全容をマニュアルに落とし込めているわけではなく、長年の感覚・勘である部分があったりすると、完全には伝えきれません。
さらにその感覚を伝えようにも、根底の考え方や感覚が異なったりすると、骨が折れるどころか大変な時間をかけても溝が埋まらなかったりもします。
例えば不良品についての感覚ですが、中国では製造工程での不良率が10%なら、10%多く作っておいて、不良品が出たら交換すればいいという考え方をする人がいます。一方で日本企業は0.1%以下、もしくはもっと高い精度のレベルを目指したりします。
こうしたギャップを埋めるのは大変というだけならいいですが、市場に流通してしまって不良品が10%も出たら、信用が一瞬で失われてしまいます。こうした事情を十分に考慮したうえで判断しないと、海外に出て痛い目にあうことになってしまいます。
こうした問題を回避する方法としては、本格移管する前に地道にマニュアル化を進めることです。
もちろん、ただ作ればいいということではなく、完成品の評価は発信者側がやるのではなく、受け手側がやらなければなりません。受け手側がそれを使ってみて機能するレベルや内容になっていなければ意味がないからです。