今回は、経営者の収益目線が短期化している理由を見ていきましょう。※本連載は、コンサルタントとして活躍する出口知史氏の著書、『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、企業の経営戦略に潜む落とし穴を見ていきます。

株主に気を使うあまり、長期プランの実行が困難に

日本では経営者というと、創業社長を除いては、順調に過ごしてきたサラリーマンの最終形というイメージが強いです。一方、欧米では、経営者という立場はプロフェッショナルが就く職業の一つになっているケースが多々見られます。

 

ケチャップで有名なハインツのトップにはバーガーキングのトップを務めていた人が就任したり、グーグルの副社長をしていた女性がヤフーのトップになったりしています。

 

日本でも、ベネッセを退任した原田泳幸元社長はその前に日本マクドナルドやアップルジャパンのトップを務めていたり、資生堂の魚谷雅彦社長は、以前は日本コカ・コーラの社長をしていたり、日本交通の知識賢治社長は、以前は(結婚式関連サービスの)テイクアンドギヴ・ニーズやカネボウ化粧品の社長をしていましたが、そうしたケースはまだ稀です。

 

話はそれますが、そうした社長さんたちと社長を採用する側である株主(社長を選ぶのは最終的に株主です)は、どうやって知り合っていると思いますか?

 

もともと何かの場で顔を合わせたことがあったりして知り合いであるケースもありますが、そうしたトップあるいはそれに準ずる立場の人たちのみを扱うヘッドハンティング会社があるんですね。

 

著者が初めてそうした会社の人と会話したのは32歳の時でしたが、面談に行く前にはいったいどれだけコワモテの人たちなのだろうか、スーツや靴まで見られるというのは本当なのだろうか? と、すごく緊張した覚えがあります。

 

話を戻して、サラリーマンの最終形のタイプの社長と職業としてのタイプの社長とは、そのシステムが社員に与える影響など全体的なことを考えると、どちらが絶対的に正しいとも言いきれません。人やチームを動かして短期的に確実に結果を出すということについては後者のタイプが優れていることが多いです。

 

しかし、絶対にトップになれないような組織で働きたいという人はほぼいないことを考えると、組織全体のモチベーションとしては前者のタイプのほうが適切かもしれません。

 

ただ少なくともいえるのは、株主に対する意識が強いのは明らかに後者のタイプです。報酬の仕組みが毎期の利益に紐付いていることが多いので、株主が誰であろうと、毎期きちんとリターンを出そうという意思が強くなります。

 

その弊害として、必要以上のリストラを行ってしまったり、長期にわたるプラン、研究開発や設備投資についての優先順位が下がってしまったりするリスクはあります。

 

ただしサラリーマンタイプの経営者であっても、似た状況は生まれます。長年続いてきた企業であるほど、自分の代で変なことになることは避けたいと考えると、短期的な業績回復のためとして、同様の状況を生み出してしまいます。

 

2010年に発覚したオリンパスの粉飾事件は、長らくトップを務めながら損失を隠していた菊川剛会長(当時)から、外国人のマイケル・ウッドフォード社長に代替わりした時に発覚しました。

 

おそらくは外国人であったために「これは先代が隠していた大事なネタだから、俺の代でも守らねば・・・」という日本的な阿吽の呼吸が働きにくかったことも発覚の一因になったと思われます。

技術開発を取り巻く環境は、今後も改善が難しい

ここで補足しますと、「今期を乗り切らなければ、その先はない」というような状況の企業では、経営者が論理的判断と強い意志をもって、本当はやるべき投資でも今期は見送るという決定をしなければならないような瞬間も訪れることはあります。

 

そうしなければ会社がなくなる、社員全員が路頭に迷うことを回避するためには、研究開発はどうしても二の次にならざるを得ない場合も世の中にはあります。

 

そうして「アジア諸国の成長」「資金の出し手の変化」「経営者の目線の短期化」という環境の変化や、根本的な日本の不景気の長期化により、研究開発や技術開発は、少しずつ経営における優先順位が下がってきたり、長期的視野に立つテーマより即物的なテーマに傾注していったりするようになりました。もちろん潤沢な資金がある高収益企業は別ですが、その数は減る一方でした。

 

2012年末から始まった「アベノミクス好景気」という風潮もありますが、主に企業のオペレーションやビジネスモデルの改善・体質転換ではなく、為替の変動によって自動的に業績が改善しているようなものだと唱える評論家もいます。つまり、仕事の仕方や組織のあり方が大きく変革したわけではありません。

 

企業の業績改善が続けばまた状況は変わってくるのかもしれませんが、技術を取り巻く環境ということについては、いまのところは大きくは変わらない、戻らないのではないかと著者は捉えています。

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