「対中ブロック」の各国とは裏腹に“親中国”のドイツ
このような政治の世界からの対中ブロックの動きとは裏腹に、対中国ビジネスに未練を残すドイツ産業界は見解を異にしている。ドイツの自動車メーカーはEUの調査によって中国政府の報復対象になることを警戒し、この政策を批判しているのである。
悩ましいのはEVをはじめクリーンエネルギーのエコシステムが中国に集中していることである。
中国は、膨大な補助金と企業支援、外資抑制で国内企業に有利な環境を作った。ハイテク産業で勝ち抜くためには巨額の初期投資を継続することが必須だが、液晶、通信基地局、太陽光パネル、風力発電部品(ナセル、プレード、タワー)、等で次々に競争相手をなぎ倒してきた。そしていま、EVとEV用バッテリーでも6割強の世界シェアを獲得するに至っている。
バッテリー素材メタルの資源確保と精錬など川上分野でも、過半をシェアしている。バッテリーメタルの埋蔵量はチリ、アルゼンチン、コンゴ、インドネシア、オーストラリア、ブラジル等に集中しているが、中国はいち早く上流権益を抑えることで、精錬においては圧倒的シェアを確保した。
VWは「西側諸国と中国のエコシステムの距離が広がっており、この状況に適応する必要がある」と述べている。VWは中国で生産する車両の部品・材料の現地調達比率を、この数年間で90%を上回る水準まで高めたという。BMWも次世代EVの開発、生産のために対中投資を増加し、部品の現地調達率を高めている。
またBASF※は、2030年までに最大100億ユーロ(約1兆5,800億円)を中国に投資することを発表し、合成ガスと水素の製造工場建設を始めた。
※ BASF:ビーエーエスエフ。ドイツ南西部に本社を置き、150年の歴史を持つ世界最大の総合化学メーカー。
調査会社ロジウム・グループによると、EU+英国による2022年の対中直接投資額に占めるドイツの割合は52%と2021年の46%から上昇している。そのなかで自動車産業が占める割合が68%と前年の50%から大きく上昇している。
ドイツ企業は中国市場を失う短期的損得が、地政学的、長期的観点よりも重要、というジレンマに陥っているようである。(WSJ9.22.23)。
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