(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年上期、中国の自動車輸出台数は日本を抜き「世界一」となりました。これに対して米国やフランス、トルコなど世界各国が「対中ブロック」を仕掛けるなか、ドイツだけは各国の「対中政策」を批判しています。世界の潮流を無視してドイツが「親中」を貫くのはなぜか、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏が解説します。

「対中ブロック」の各国とは裏腹に“親中国”のドイツ

このような政治の世界からの対中ブロックの動きとは裏腹に、対中国ビジネスに未練を残すドイツ産業界は見解を異にしている。ドイツの自動車メーカーはEUの調査によって中国政府の報復対象になることを警戒し、この政策を批判しているのである。

 

悩ましいのはEVをはじめクリーンエネルギーのエコシステムが中国に集中していることである。

 

中国は、膨大な補助金と企業支援、外資抑制で国内企業に有利な環境を作った。ハイテク産業で勝ち抜くためには巨額の初期投資を継続することが必須だが、液晶、通信基地局、太陽光パネル、風力発電部品(ナセル、プレード、タワー)、等で次々に競争相手をなぎ倒してきた。そしていま、EVとEV用バッテリーでも6割強の世界シェアを獲得するに至っている。

 

バッテリー素材メタルの資源確保と精錬など川上分野でも、過半をシェアしている。バッテリーメタルの埋蔵量はチリ、アルゼンチン、コンゴ、インドネシア、オーストラリア、ブラジル等に集中しているが、中国はいち早く上流権益を抑えることで、精錬においては圧倒的シェアを確保した。

 

VWは「西側諸国と中国のエコシステムの距離が広がっており、この状況に適応する必要がある」と述べている。VWは中国で生産する車両の部品・材料の現地調達比率を、この数年間で90%を上回る水準まで高めたという。BMWも次世代EVの開発、生産のために対中投資を増加し、部品の現地調達率を高めている。

 

またBASFは、2030年までに最大100億ユーロ(約1兆5,800億円)を中国に投資することを発表し、合成ガスと水素の製造工場建設を始めた。

※ BASF:ビーエーエスエフ。ドイツ南西部に本社を置き、150年の歴史を持つ世界最大の総合化学メーカー。

 

調査会社ロジウム・グループによると、EU+英国による2022年の対中直接投資額に占めるドイツの割合は52%と2021年の46%から上昇している。そのなかで自動車産業が占める割合が68%と前年の50%から大きく上昇している。

 

ドイツ企業は中国市場を失う短期的損得が、地政学的、長期的観点よりも重要、というジレンマに陥っているようである。(WSJ9.22.23)。

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年10月3日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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