「他者の知恵で成功する」ということ
賢明な者はつねに、偉大な先人たちが踏み固めた道をたどり、傑出した人物の模倣に努めるべきだ。たとえおのれの能力は及ばずとも、せめてその香りだけでも身に移るように。
──ニッコロ・マキャベッリ(イタリア、ルネサンス期の政治思想家)
他人が編みだした最高の技を自分のものにしようとするのは有効な方法だと思います。ただ座って自分ですべてを考えだそうとしても、うまくはいかないでしょう。人はそんなに賢くはないのです。
──チャーリー・マンガー(ウォーレン・バフェットが会長を務める投資持株会社バークシャー・ハサウェイの副会長。投資家)
世代を代表する投資家、モニッシュ・パブライが訪問した先──
クリスマスの日の朝7時。スモッグで覆われたムンバイの空に朝日がのぼり、モニッシュ・パブライがミニバンに乗りこむ。私たちはこれから、ダードラー・ナガル・ハベーリーと呼ばれる地区へ向かってインドの西海岸沿いを何時間も走る。ときおり運転手はトラックやバスのあいだを曲芸のようにすり抜け、人の肝を冷やす。クラクションが全方向から鳴り響く中、私は目をつぶって歯を食いしばる。
アメリカの大学へ進むまでインドで暮らしていたパブライは穏やかにほほえみ、あぶない場面でも冷静さを失わない。ただし、その彼も認める。「インドで事故に遭う確率は高い」。
窓の外には見たことのない光景が次々と現れて目が離せない。あるときは、でっぷりした男がやせ細った女の頭の上にれんがをいくつも積んで運ばせようとしている脇を通りすぎた。田舎道に入ると、ずんぐりした草ぼうぼうの小屋がいくつも見える。あまりに粗末で遠い世紀の遺物のようだ。ようやく目的地に着く。村のJNVスィルバーサー高校だ。
世代を代表する投資家のひとり、モニッシュ・パブライがカリフォルニア州アーバインの自宅からはるばるここまでやって来たのは、この高校に通う10代の女子生徒40人に会うためだ。パブライが設立した、インドの貧困層で才能のある子どもたちに教育の機会を提供する、財団ダクシャナのプログラムの一環として女子生徒たちはここで学んでいる。授業料免除で2年間学び、超難関のインド工科大学(IIT)を受験するのだ。
IITとは工学系の名門大学の総称で、卒業生はマイクロソフトやグーグルなど名だたる企業へ就職していく。
IITの受験者は年によっては100万人を超え、合格を手にするのは2%もいない。だがダクシャナはその厚い壁を打破した。12年間で2146人のダクシャナ奨学生がIIT入学を果たし、62%の合格率をあげたのだ。サンスクリット語で「贈り物」を意味するダクシャナの役割を、パブライはインド社会で最も恵まれない階層の人たちの生活向上を助けることにあると考える。
ダクシャナで学ぶ子どもたちの大半は、一日2ドル未満で暮らす貧しい農村家庭の出身だ。多くがカースト下位に属し、なかには長年にわたり差別を受けてきた「アンタッチャブル」層のものもいる。