投資界の新星が「地の底の底まで落ちた」とき
成功した投資家は富と特権の繭(まゆ)にくるまれ、苦難からは無縁だと思われがちだ。
だが私は、彼らと長い時間をともにし、苦い離婚や、わが子の病、激烈なストレスに冒された時期など、その悩みや苦しみを間近で見てきた。彼らの運命を大きく左右する金融市場は気まぐれで残酷で、彼らの夢を砕き、傲慢を罰し、まちがった考えを衆目にさらして嗤(わら)おうとする。
モニッシュ・パブライは言う。優れた投資家はみな、「痛みを受けいれる能力」を備えていると。
2017年、セントラルパークを一望できるニューヨークの超高層ビルの32階にある洗練されたオフィスで、ジェイソン・カープと会った。
当時、〈トゥールビヨン・キャピタル・パートナーズ〉のCEO兼最高投資責任者だったカープは、投資界の新星だった。1998年にペンシルベニア大学ウォートン校を4番で卒業し、SACキャピタルの野心旺盛なポートフォリオ・マネジャーとして活躍したあと、歴史を見てもとくに挑戦的なヘッジファンドを立ちあげた。
彼のファンドは最初の3年間ですばらしいリターンをあげ、またたくまに40億ドルの資産が集まった。ハンサムで魅力的で聡明で、驚異の行動力をもったカープは、触れるものすべてに勝利をもたらす運命の申し子に見えた。
ところが彼の旗艦ファンドは2016年に9.2%の損失を出す。原因のひとつは、スキャンダルの渦中にあった多国籍製薬メーカー〈バリアント〉が、見た目ほど不良な状態ではないと市場に認識されてまもなく浮上するだろうという彼の読みが外れたことだった。
同時期にS&P500指数は12%のリターンをあげている。この2016年はカープの18年のキャリアのなかで最悪の年だった。悪いムードのまま始まった2017年も、13.8%の損失で終えることになる。カープは、初めて挫折したこのときの衝撃を率直に語ってくれた。
「去年はひどい屈辱を味わった。きわめて個人的にとらえてしまい、頭に血がのぼった。それまでほとんど下げたことのない頭を一年中、下げてまわり、自信はぼろぼろだった。ぼくが悪いのか? 無能になったのか? このまま負けるのか?」
過去には「とんでもないほど大きな」リターンを稼いだ時期もあったとカープは言う。
「みなが秘伝のソースを知りたがる。あなたはなぜそんなにすごいのですか、って。あれは人を舞いあがらせる」 。だが挫折に直面する。「空の上から地の底の底まで落ちたようだった。以前は不死身だと思われていたが、死ぬこともある生身の人間だと示すことになった」
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