人生は「習慣」で決まる
こうして、年若いころからある習慣を刻みつけるか別の習慣を刻みつけるかで、小さくないちがいが生まれる。小さくないどころか、その差はきわめて大きく、いやむしろ、すべてがそれで決まると言っていい。
──アリストテレス
人は、とくに若いうちには、どうも軽く見てしまうようです。習慣がいかにたいせつか、40や50になってから習慣を変えることがいかにむずかしいか、そして若いうちに正しい習慣を身につけることがいかに人生を左右するかを。
──ウォーレン・バフェット
体重190ポンド、米投資家の「才能」
1990年、トム・ゲイナーの体重は190ポンド(約86キロ)あった。ビーチバレーの五輪金メダリストだと勘違いされる心配はまるでない体型だ。それでも本人はその体重は「妥当な範囲内」にあると思っていたそうだ。
当時、28歳だった彼は、バージニア州リッチモンドに本社を置く保険会社〈マーケル〉で投資ポートフォリオの運用を担当していた。投資は座りっぱなしで戦うスポーツであり、四六時中、データを読み、考え、数字と勝負しなければならない。ゲイナーは投資が身近にある家庭で育ち、8歳か9歳のころにはすでに、金曜の夜の楽しみが、祖母と観るテレビ番組〈ルイス・ルーカイザーのウォールストリート・ウィーク〉になっていた。
年齢を重ねるうちに、座ったままでいつまでも考えていられるゲイナーの才能は、本人にとっては予想外の副作用を生む。
体重が徐々に増えて200ポンド(約90キロ)を突破したのだ。これ以上は太るまいと決意した彼は、友人や同僚に向かって、この先10年かけて毎年1ポンド(およそ500グラム)ずつ減量すると宣言した。目標が低すぎるとあきれる向きもあるかもしれないが、ある研究によれば、平均的なアメリカ人男性は成人早期から中年期にかけて毎年500グラムから1キロ程度太っていくという。
資金を複利で増やす達人のゲイナーは、わずかな有利・不利の差が長期的には大きなちがいとなることをよくわかっていた。だから、長年の不健康な習慣を変えるべく、とにかく一歩を踏みだすことにしたのだ。
「子どものころの自分は、キャンプ場をうろつくアライグマのような食べ方をしていた」とゲイナーは言う。ドーナツなら毎年200個は食べていたそうだ。減量を始めるときに、そんな罪深い喜びを一気に断とうとする人がいるが、ドーナツ抜きの味気ない生活に(ごく短期間だけ)浸かったあとは、(まずまちがいなく)挫折してしまう。ゲイナーはちがった。いまもドーナツを年に20個は食べると屈託なく白状する。だが全体として見れば、健康的な食事をしっかり守ってきた。
何回か一緒に食事をしたときのことを振りかえると、ニューヨークの古風なクラブでの昼食に彼はサーモンのシーザーサラダと砂糖抜きのアイスティーを注文し、彼のオフィスでの昼食は2回ともサラダと魚、リッチモンド郊外にある彼の自宅でのディナーは、彼がみずから調理したうまい「サーモンのバジルソース和え芽キャベツ添え」とワイン、最後はアイスクリームだった。
人生のほかの領域と同じく栄養の面でも、ゲイナーの戦略は、完璧を目指すのではなく「方向性の正しさ」を重んじる。「つまり私はある程度で満足できる人間であって、最大を追いもとめてはいない」。
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