パプライが写真を一緒に撮ろうとアリーサを誘う。「きみはきっと、ぼくのことを忘れるだろうな」といたずらっぽく言う。「でもそのとき、ぼくはこう言おう。『昔、一緒に写真を撮りましたよ!』ってね」 。生徒たちがおもしろがって笑いだす横で、私は泣きそうになる。目のまえで何かの魔法が起こるのを見た。貧しい世界から出てきた子どもが、自身と家族を豊かな世界へと導く知力のあることをいまここで証明したのだ。育ってきた境遇とこれまでの困難を考えれば、奇跡と言っていい。
「サー、どうやって、そんなにお金持ちになれたのですか?」
そのあとの時間、生徒たちはパブライに質問を次々と浴びせる。最後に、みなが訊きたかったことをひとりが思いきって訊く。「サー、どうやって、そんなにお金持ちになれたのですか?」。
パブライは笑って言う。「お金を増やす方法があるんだよ」どう説明しようか迷いながら話しだす。「私には尊敬する人物がいて、名前をウォーレン・バフェットと言う。聞いたことのある人は?」誰も手をあげない。きょとんとした顔ばかりがまえを向いている。
そこでパブライは、自分の18歳の娘モマチが高校卒業後の夏休みのアルバイトで4,800ドルを稼いだ話を始める。その金をパブライは、娘のための年金口座に投資した。このささやかな貯金が毎年15%の福利で60年間増えていったらどうなるか、パブライは生徒たちに訊いてみる。「5年ごとに額は2倍になる。ということは、2倍を12回繰りかえすよね」 。パブライは言う。「人生も倍々で大きくなる」。
一分後に生徒たちは計算を終えた。モマチが78歳になる60年後には、貯金の4,800ドルは2,000万ドルにもなっている。数学的に起こる現実のとてつもない力に、教室は驚嘆の空気に包まれる。「複利について、もう忘れないね?」パブライが尋ねる。インドの貧しい村からやってきた40人が声をそろえる。「はい。サー!」。
金融ジャーナリスト
ウィリアム・グリーン