オーナーの苦悩…「家賃滞納者への対応」をどうする?
「家賃滞納」に苦しむ賃貸物件オーナーは、現在も少なくありません。滞納者本人に交渉してもらちが明かず、法的措置を取るには金銭的負担が大きすぎるといった事情があります。
昭和時代には、怒りにかられたオーナーが室内の荷物を運び出してカギを交換し…というケースもあったようですが、令和のいまは、そのような対応は決して許されません。
自分の所有物件であっても、勝手に入室すれば住居不法侵入であり、法的にもとくに厳正に扱われています。借主に断りなく部屋に入るとするなら、孤独死等を疑うときぐらいです。その場合は、警察立会いのもと、合い鍵を使って入ることになります。
家賃を滞納する住民には、収入が途絶えてしまい、家賃を払いたくても払えないという人もいますが、まっとうな交渉が通じない「問題入居者」もいます。
話し合いにならなくても、法的に対抗すれば部屋から退去してもらうことは可能ですが、弁護士費用や申し立て費用がかさみ、オーナー側の手痛い出費になることは想像に難くありません。その場合、正当性を振りかざして正面からぶつかるより、オーナーの金銭的・時間的損失が最も少ない道を探ることが重要です。
そこで選択肢となるのが「ある程度のお金を渡して、穏便に退去してもらう」という方法です。
いくら腹が立ったとしても、上述した昭和時代のような対応をしては大変です。もし無断で室内に立ち入った場合、あとから「金庫内の大金がなくなった」「高価な絵が持ち出された」等の言いがかりをつけられるリスクも発生するなど、相手に反論の隙を与えてしまいます。その結果、トラブルは深刻化・複雑化していきます。
そのため、オーナー側の負担をできるだけ軽くしつつ、穏便に退去してもらうのが得策でとなります。弁護士費用をかけるより、その分を入居者に渡すぐらいのつもりで対応したほうがいいのです。
「解約合意書」の作成&チェックには、弁護士を入れた方が安全
ただし、弁護士を入れたほうが安心なこともあります。問題入居者が退去する際の「解約合意書」の作成とチェックです。
解約合意書には、退去日や鍵の受け渡し等の確認を記述するのですが、そこに「残置物の扱い」についても明記し、相手の意思確認を取っておくのです。
退去後に確認に出向くと、冷蔵庫や金庫、書類といった残置物が残っていることがあるのですが、実はこの扱いが非常に厄介なのです。部屋は明け渡しても、残置物は元入居者の所有物ですので、勝手に処分できません。本当にごみなら捨ててもいいのでしょうが、問題入居者の場合、あとから「高価なものだった」などクレームをつけることがあるからです。そのような事態を防ぐためにも、一筆取っておくことが重要なのです。
住人の退去時には、オーナーもしくは管理会社が確認に立ち会い、荷物が残っていないかどうかを確認し、カギを受け取って当日合意書を書いてもらう…というのが一般的な流れです。場合によっては、それぞれ数日の間隔をおくこともあります。
しかし、相手が問題入居者であり、オーナーが対面に危険を感じるような場合は、代わりに弁護士が対応します。その場合は弁護士もひとりではなく、ほかの弁護士や管理会社の担当者等と、複数人で立ち会うことになります。
実例:ようやく退去にこぎつけるも、荒れ果てた室内に呆然…
「さんざん迷惑をこうむった入居者に、お金を渡して出て行ってもらうなんて…」と、納得できないオーナーの方も多いでしょう。しかし筆者は、「お金を渡したことのみを注視するのではなく、全体的な利益について、よく考えてみてください」とお話ししています。もしものことがあれば、将来的な利益のすべてが失われてしまいます。いくら正当な理論を振りかざしても、後悔の残る結果になってはどうしようもありません。
筆者が取り扱った案件で、問題行動で周辺の住民の方々の生活にまで悪影響を及ぼしていた、迷惑な入居者の事例があります。
オーナーと打ち合わせのうえ、問題の入居者にお金を渡して何とか穏便に退去してもらったのですが、その後が大変でした。
筆者は念のため複数の弁護士とともに部屋の確認に行ったところ、現場は足の踏み場がないほどごみが散乱し、部屋の壁にはいくつもの穴が開いていました。
弁護士仲間があきれた様子で周囲を見渡していたなかで、筆者は目の前の壁の穴に違和感を覚え、なんとなく穴を指で崩しました。すると「スポーン!」という音とともに、なにかが筆者の頭をかすめました。
驚愕して振り返ると、ガリガリを通り越してペラペラに痩せ細った猫でした。おそらく、入居者が置き去りにした飼い猫だと思われますが、なぜ壁の中にいたのかはわかりません。確認が遅かったら、おそらく猫の命も危なかったことでしょう。
このように、家賃滞納者のなかには恐るべき問題入居者が含まれていることもあり、ひとり正論を振りかざして立ち向かっても、歯が立たないどころか、かえって将来的な損失が拡大するリスクもあります。その点を踏まえたうえで、早めの対処で最小限の損失に抑えることが、収益物件オーナーの知恵であるといえます。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦