前回は、「生命保険」の非課税枠を活用して相続税をゼロにする方法について説明しました。今回は、現金より確実な「生命保険」を使った財産移転のメリットについて見ていきます。

遺言書通りにできるとは限らない遺産分配

前回の続きです。

【②請求書類が整えば、すぐに現金化できます】

被保険者が死亡し、保険金の受け取りを請求した時点から、書類到着後、最短5営業日以内で保険金が支払われます。中には「即日支払いサービス」といって、保険金の一部を即日支払ってくれる保険会社もあります。葬儀代だ、代償交付金だと、お金が入用になる相続の場面で、まとまったお金がポンと入ってくるのは、遺族にとって、とても助かることでしょう。

 

ちなみに、被相続人が金融機関に預けてある預金は、被相続人が死亡した時点で原則、預金封鎖されてしまいますので、受取人に直接入ってくる保険金は自由に使えて便利です。

 

【③あらかじめ、受け取る人を決めておけます(生前相続)】

保険金の受取人を契約者が設定できるメリットがあります。受取人を指定しておけば、必ずその本人に保険金が支払われます。

 

遺言はたとえ被相続人が「誰々にこれを渡す」と書いておいても、必ずしもその通りに実行してもらえるかどうかは保証されません。遺言書はあくまで被相続人の希望を記したものであって、相続人たちの話し合いで分割を変えることも認められているからです。被相続人が望まぬ人物に遺産が渡る可能性もゼロではないことを考えると、保険金で確実に渡したい相手に遺産を渡せるのは、大きなことだと思います。

 

この特性は、「生前相続」ともいえましょう。被相続人が生きているうちに自分の意思で、渡したい相手に相続させられるという意味です。

保険金は遺産分割協議や相続放棄の対象外

【④他の相続人との分割協議が必要ない受取人固有の財産となります】

これは、③の内容とつながります。保険金はそもそもが受取人固有の財産であるため、被相続人の遺産のうちには入りません。ですから、遺産分割協議で分け方を話し合う必要もないのです。誰に何を言われることもなく受取人が堂々と受け取れるお金です。

 

たとえば、後継者の子に保険金が入るようにしておけば、受け取ったお金を少なくもらった子への代償交付金として使うこともできます。もちろん相続税の納税に充てても構いません。あるいは、後継者以外の子に保険金が入るようにしておけば、遺産の取り分が少なくても不満が出にくくなります。ただし、これは代償交付金としての効果はありませんから、兄弟姉妹の性格を見極め、契約形態を決めなければなりません。

 

【⑤相続放棄をしても受け取れます】

相続では、負の財産が多い場合などに、相続人が相続をしないという選択もできます。これを相続放棄と言います。相続発生から3カ月以内であれば、相続放棄が可能です。

 

相続放棄をすると、負の財産と一緒に正の財産もすべて手放すことになります。ところが、生命保険金だけはそれから除外されます。なぜかというと、先ほども申し上げたように、保険金は「受取人固有の財産」だからです。

 

被相続人の死後に多額の借金が発覚するとか、連帯保証人になっていたことが判明するなどして相続放棄をするしかなくなるケースも実際に私は見てきました。万一の場合に備えて遺産を確保しておくという意味でも有効だと思います。

本連載は、2016年8月27日刊行の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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