前回は、個人開業医でも利用可能な「退職所得」を使って財産を残す具体策を見てきました。今回は、医院経営の観点から見た「スタッフ育成」の重要性を説明します。

本来の仕事以外のことに院長の時間が取られる・・・

具体策7 「後継者やスタッフの育成」に気を配りましょう

 

院長の妻として、後継者の育成に励んでいただきたいというお話は書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』の第1章でしましたが、できれば奥様にはクリニックのスタッフの育成にも気を配っていただけたらと思います。

 

「スタッフの育成まで、私なの?」と、少々うんざりされそうですが、医業を継続するためには、どうしても外すことのできないテーマです。

 

2016年7月、厚生労働省の発表によると、有効求人倍率が1.36倍になりました。人口減少に伴い、人手不足が顕著に出始めています。

 

昭和の終身雇用が当たり前だった時代とはうって変わり、少しでも労働条件のいいところに転職することは、今や当たり前の時代になっています。多少つらいことがあっても、未来に希望をもち辛抱する人間は、戦後教育の結果として、非常に少なくなっているのです。核家族の中で育った人は、家庭教育が十分に行われないまま社会に出ることになりますので、職場は教育の場だと心得て、一人ひとりのよさを育て、自己成長実感をもってもらえる職場環境を整えていく必要があります。

 

先生が診察室で一生懸命診療なさっても、電話の対応や受付での対応のまずさひとつで、患者さんは簡単に去ってしまいます。

 

最近の体験ですが、がんを患っていらっしゃるお客様が、都内の大学病院に入院され、入院保険の請求のため、保険会社所定の診断書を書いていただきました。ところが、でき上がった診断書には病名しか書いておらず、入院日も退院日も治療の内容も、とにかく何も書いていないのです。

 

これでは何も請求できませんので、文書課に連絡したところ、「入院日や退院日を書くように、患者さんから言われていません。病名だけで請求できる保険もありますから」と、論点が噛み合わないことを強く主張されました。

 

そんなことをわざわざ患者さん側から言わなくても書いて当然だと思いたいのですが、今の世の中はそうでないことも多いのです。これまで当たり前だと思っていたことが、音を立てて崩れていくような感覚を覚えました。

 

こちらとしても苦情を申し上げるしかなかったのですが、こうした例では、医師は本来の診療とはまったく違うことで、余分なエネルギーを使うことになってしまいます。スタッフの不備やミスは、結局、院長先生にはね返ってきてしまうのです。

スタッフの頻繁な入れ替わりは、医院経営にとって負担

ですから、ご自分のお子様と同じように、スタッフに対しても奥様が教育なさるしかありません。奥様がスタッフの話を聞いたり、患者さんへの声かけをしたりして、陰ながら医業に貢献されていらっしゃるクリニックは、経営的にも成功されている場合が多いのです。それくらい大きな影響があります。

 

また、ハード面では福利厚生制度も整えましょう。みんなが働きやすい職場にすることで、スタッフが長く働いてくれるようになります。クリニックの内情に精通し、患者さんの一人ひとりのこともよく知って、いきいきと働いてくれるスタッフがたくさんいれば、おのずとクリニックは活気づいていきます。

 

スタッフが頻繁に入れ代わることは、きっと院長先生や事務長にとっても負担なはずです。面接して採用して、一から育てなくてはならないからです。福利厚生面の充実で、スタッフが離れていくリスクを最小に留めることが大切です

本連載は、2016年8月27日刊行の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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