裁判所が借主の主張を「一刀両断」したワケ
この事案で争点となったのは、
1.エレベーターが使用できないことを理由とした賃料の支払拒絶について正当性があるか
2.契約解除通知後に、賃借人が未払い賃料の大半を支払った場合、解除の効力は否定されるのか
という点です。
1.借主による「賃料支払い拒絶」に正当性はあるか?
まず、1の争点について、裁判所は、エレベーターが使用できないことについて、
と判断しました。そのうえで、賃料減額の程度については、
と判断し、この減額幅を超える賃料の不払いが3ヵ月分を超えた時点で信頼関係破壊による賃貸借契約解除が認められると判断しました。
2.事後的に賃料を支払った借主…契約解除は“不当”か?
また、上記2の争点については、賃借人側は
・賃借人にとってレストランが唯一の収入源であること
を主張して、信頼関係は破壊されていないと争いました。しかし、裁判所は
「前者は解除後の事情であり、後者は賃料不払を正当化する事情には当たらない」
と一刀両断しており、賃貸人側からの解除を認めています。
さすがに全額の賃料不払いは行き過ぎということで結論としては至極当然と思われますが、本件においては賃借店舗が2階部分だったことから、エレベーターの利用ができないことの賃借人の不利益を賃料35万円のうち5万円程度と評価していますが、賃借部分がさらに上階だった場合には、さらに賃料の減額幅も大きくなるであろうことを示唆する裁判例として参考になります。
なお、この裁判例は、エレベーターが使用できない状態になった場合において、賃貸人としてどこまで対応していればよいかという点について、以下のように述べています。
「賃貸人は賃借人に対しエレベーターの保守・点検・修繕などを行う債務は負っているものの、エレベーターは昭和63年から稼働する古い型式のものであって、古いものであることは契約締結前の内覧・内見等により賃借人側も認識し得たものである」
「賃貸人においては、古い型式であることを前提として保守点検・修繕やその努力を行っていれば賃貸借契約上の賃貸人としての債務は履行しているというべきであり、少なくとも700万円を超えるようなリニューアル工事を実施して常時使用できる状態に復旧しなければならない債務までを当然負うとはいえない」。
傍論ではありますが、この点も同種事案において参考になると思われます。
北村 亮典
弁護士
大江・田中・大宅法律事務所
※この記事は、2023年5月6日時点の情報に基づいて書かれています(2023年8月24日再監修済)。
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