A氏が提示した「3つの老後プラン」
ねんきん定期便に間違いがないことがわかり、その金額に再度衝撃を受けたA氏は、定年退職後の暮らしについてこれまでの考えを改め、下記の3パターンの働き方を提案してくれました。
①勤務先に再雇用
……勤務先の再雇用制度を使い、65歳まで勤務する。ただし給与は現在の約50%となり、ボーナスはない。
②他社に転職
……部長待遇で誘われている別の会社に転職し、65歳まで勤務する。給与は現在の70%となるものの、ボーナスも退職金も支給される。
③個人事業主として起業
……起業当初は、事業収入から経費を差し引いた事業所得480万円が確保できる。A氏によると、「その後も上昇が見込め、70歳以降も働ける」という。
筆者は、「65歳まで働くのであれば、どのプランであっても老後の生活のめどは立ちます」と話しました。しかし続けて、
「ただし、懸念点があります。まず、どのプランを選ぶとしても、定年後の収入は生活費や教育費、住宅ローンの返済に使い、退職金や貯蓄を最小限の支出にする必要があります」。
「次に、上記のプランのうち、①か②を選んだ場合、A氏は引き続き厚生年金に加入していますので、ご家族の健康保険はA氏の扶養のままとなり、奥様の国民年金も第3号被保険者※として保険料負担はありません。
※ 詳細は日本年金機構「第3号被保険者」を参照。
しかし、③を選びA氏が個人事業主になった場合、ご家族は国民健康保険に加入することになり、保険料の支払いが発生します。奥様は60歳まで国民年金保険料を納付することになります」と話しました。
60歳以降も働いたときの年金受給額
A氏が60歳以降も働いた場合、年金受給額も下記のように変動します。
※「65歳~」は、A氏のみの老齢厚生年金受給額。「75歳~」は、妻の老齢厚生年金96万2,500円が加算されている。
上記プランの①か②で働くと、「報酬比例部分」の受給額が給与収入分増えることになります。また、「経過的加算※」も9万9,735円受給できます。「老齢基礎年金」の受給額は変わりません。
※ 経過的加算……A氏のように、国民年金加入期間が上限の40年(480月)に達していない人が、「『特別支給の老齢厚生年金』の定額部分」と、「厚生年金に加入している期間の『老齢基礎年金』」との差額を厚生年金保険に上乗せして受給できるしくみ。A氏の場合は5年(60月)分、 9万9,735円を65歳以降受給する老齢厚生年金で生涯受給できる。なお、計算式など詳細については日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額の経過的加算」を参照のこと。
また、③を選び個人事業主として起業した場合、国民年金の加入期間は60歳までですが、A氏は先述したように5年間の未納期間があります。そこで、国民年金保険に任意加入して毎月1万6,520円保険料を納付すれば(※令和5年度現在)、65歳から老齢基礎年金が満額79万5,000円受給できます。なお、厚生年金の受給額は60歳で定年退職するときと同額です。
まとめ…A夫妻のこれから
筆者の話を受け、A氏は3つのプランそれぞれのメリット・デメリットを踏まえ、すでに起業した先輩方の話や妻の考えを聞きながらできるだけ早く自分の進路を決めることにしました。聞けば、③の起業にもっとも興味を持っている様子です。
A氏は、「長女の進路について相談に乗っていたところでしたが、自分の進路については逆に子どもに相談しなくちゃいけないかもしれませんね」と苦々しく笑ったのでした。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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