①〜⑧の手続きについて、順番に解説していきます。
①相続財産管理人の選任
利害関係人または検察官が家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を申立て、家庭裁判所が相続財産管理人を決定します。
相続財産管理人とは、被相続人が遺した遺産の管理や負債の清算などを行う人のことです。候補者がいなければ、その地域の弁護士の中から選任されることが多い傾向にあります。
相続財産管理人選任後、家庭裁判所は相続財産管理人を選任したことについて公告し、公告期間である2ヵ月の間に相続人が現れるのを待ちます。
②債権者、受遺者への請求申出の公告
相続財産管理人選任の公告から2ヵ月経過しても相続人が現れなかった場合、相続財産管理人は債権者と受遺者に対し、請求申出の公告をします。
公告期間は2ヵ月以上です。請求申出の公告を経ても相続人が現れなければ、相続財産の清算に進みます。
③相続財産の清算
債権者、受遺者への請求申出の公告を行っても相続人が現れなかった場合、相続財産管理人が相続財産を清算します。被相続人の債権者への支払いや受遺者への遺産の引き渡しをし、回収すべき債権がある場合は回収します。
④相続人捜索の公告
相続財産管理人または検察官の請求によって、家庭裁判所が相続人捜索の公告をします。
相続財産管理人選任、債権者、受遺者への請求申出の公告と、これまで2回にわたって相続人が現れるのを待ちましたが、この3回目の公告で相続人が名乗り出なければ、ついに相続人不存在確定です。
なお、公告期間は6ヵ月以上とされており、この期間内に相続人が現れなければ、実際には相続人が存在していた場合でもその権利は消滅します。
また、この期間内に相続財産管理人が知り得なかった債権者や受遺者が請求申出をしなかった場合は、債権者、受遺者が持つ権利も消滅します。
⑤相続人不存在の確定
相続人捜索の公告後、期間を過ぎても相続人が現れなかった場合は、相続人は存在しないものとし正式に相続人不存在が確定します。
⑥特別縁故者への財産分与の申立て
相続人不存在が確定すると、特別縁故者は家庭裁判所に対して財差分与の申立てができるようになります。
申立て期間は相続人捜索の公告が期間満了した翌日から3ヵ月以内です。審判の結果分与が認められれば、家庭裁判所が決定した金額が遺産の中から分与されます。
⑦特別縁故者への分与または申立ての却下
分与の審判が確定すれば特別縁故者に対し遺産が分与されますが、申立ては必ずしも認められるわけではなく、却下される場合もあります。
その場合は、特別縁故者に分与されることなく国庫に帰属します。なお、遺産のうち共有の不動産については、国庫に帰属せず共有者に帰属します。
⑧国庫へ帰属
①〜⑦までの手続きをしてもまだ残りがある場合、それらはすべて国庫に帰属します。相続人がいないからといって、遺産が自然に国庫に帰属することはなく、このようにさまざまな手続きを経る必要があるのです。
法定相続人がいない…生前にやっておくべきこととは?
法定相続人がいないからといって、相続対策が不要だということはありません。むしろ、法定相続人がいないからこそ、後悔のないよう生前にきちんと対策しておく必要があります。ここでは、法定相続人がいない人が生前にやっておくべきことを紹介します。
遺言書を作成する
法定相続人がいない場合、遺言書を作成しておくことをおすすめします。ぜひこの人に遺産を遺したいという希望がある場合や、国庫に帰属するくらいならどこかに寄付したいというような思いがある場合は、遺言書を作成しておくとよいでしょう。
法定相続人がいる人が遺言書を作成した場合、遺留分があることから遺言書の内容が実現しないこともあります。
しかし、法定相続人がいない人には遺留分を気にする必要がないため、無効になるような非常識な内容でなければ遺言書の内容はほぼ実現可能だと考えてもよいでしょう。
養子縁組しておく
親しくしている遠縁の子など、遺産を遺したい人がいる場合には養子縁組しておくことも有効です。養子縁組し、養親と養子の関係になると法律上は親子関係が生じ、相続権が発生するためです。自分の死後は養子が遺産を相続してくれるため、相続人不存在の状態を避けられます。