グレーなシステム…?老人施設の「入居一時金」
ここで、有料老人ホームへの入居を検討しているKさんの事例を紹介します。
Kさんは15歳で経営していた会社を甥に継がせてリタイアしました。独身だったこともあり、それを機に民間の有料老人ホームへの入居を検討することにしました。どうしても気になるのは「入居一時金」のことだと言います。
「施設を何ヵ所か見学に行ったところ、いくつか候補が上がりました。しかし、入居一時金というのが、あるところでは200万円が必要と言われ、別のところでは1,500万円、調べてみればその一方で0円というところもあるのです。このシステムはどういう性質のものなんでしょうか?」という質問を受けました。
有料老人ホームには、入居一時金という特有の制度があります。
これについては、老人ホームに入ることを、不動産契約に置き換えるとわかりやすいかと思います。
たとえば、賃貸物件に入居するときは部屋を汚したり傷つけたりしたときや、家賃の支払いが滞ったときに備えて、あらかじめ「家賃1~2ヵ月相当額の前払い金」を敷金として支払う通例があります。敷金は払うべき経費が発生しない限り退去時に全額が戻ってきます。
有料老人ホームの場合、月額の利用料や共益費などをもとに算出した入居一時金をとる施設がありますが、理由なく償却(天引き)されるという特徴があります。
入居一時金については、一定の期間は設けられていますが、何らかの理由で途中で退去することになった場合は基本的に償却されていない分の金額のみ返却される仕組みとなっています。
もうひとつ、不動産の取得契約でローンを組むときの「頭金」という性質もあります。一時金が高ければ、毎月の利用料の支払いは少なくて済み、逆に一時金が0円の場合にはその分毎月の支払いが高くなります。
いずれにせよ、賃貸不動産の「敷金」にまつわるトラブルが絶えないのと同様に、老人施設での「入居一時金」に関してもグレーな部分が多いことは否めません。
こうした前払金の算定根拠の明示は、老人福祉法※上では定められていますが、たとえば初期償却の数値についての具体的な基準までは存在しないのです。
私はKさんに「納得がいく説明があるまで、決して契約はしないように」とアドバイスしました。さらに、「入居した後も、3ヵ月をエックスデーと見なし、そのときまでに永続的に入居するかを判断してください」とも言いました。
これは2012年から導入されたクーリングオフ制度で、通称「90日ルール」と呼ばれます。入居後3ヵ月以内であれば利用者側から解約し退去した場合、施設は前払い金から家賃など入居中の実費を差し引き、残りが無条件で全額返還されます。
これにより、理不尽な「初期償却」をされずに済むのです。
具体的に何月何日が期限日(エックスデー)となるかは間違いがあってはならないので、契約時に施設側に確認し認識を共有しておくと安心です。
<注釈>
※「老人福祉法」とは……高齢者福祉を管轄する施設機関や事業について定められた法律。都道府県や市区町村において、老人居宅生活支援事業、老人福祉施設に関して規定している。
外岡 潤
「弁護士法人おかげさま」代表
弁護士