「利用者の負担は少ないほどよい」?
介護保険は原則1、2割負担でさまざまなサービスが使える便利な制度ですが、その分制約もあり、後述するようにヘルパーの食事づくりでいえば利用者以外の家族の分まで作れない、といった制約があります。
そのため、場合によっては介護保険を使わず自費でサービスを受けた方が制約なく「望みのまま」の介護が受けられる、ということもあります。
家庭によって介護のニーズや考え方は違うでしょう。どれだけ介護にお金を使えるかという経済事情も異なります。
ところが、ケアマネによっては「利用者の負担は少ないほどよい」と思い込み、自費サービスを敬遠し介護保険の範囲内でサービスを組もうとする人もいます。そのような場合はかえって自由な選択を妨げてしまいます。
何より大事なのは「まず聞く」こと
ケアマネ向けの研修のなかで 「隣の人に“おいしいカレーの作り方“を説明する」というミニワークがありました。
あなたならどうしますか? レシピを必死に思い出し、「まず野菜を切って、炒めて……」などといきなり具体的な説明を始めてはいないでしょうか?
正解は、「まず相手にどんなカレーが好みかを聞く」でした。
辛口が好きか、苦手か、どんな具材が入っているといいか、あっさりしたスープ仕立てか、コクのあるルータイプか……。好みは人それぞれなので「おいしい」の定義が違うわけです。それは相手に聞かないとわからないので、「まず聞く」こと。
それが何より大事ということを学ぶワークなのです。
本当に良いケアマネとは
介護に関して「この人はリハビリ※1が必要だろう」と勝手に決めつけ押し付けるようなことがあったら、どんなにサービス自体が優れていたとしても、それはその人にとっての「いいケア」とは言えません。
また、リハビリひとつとっても、自分でデイケア※2に通っておこなうタイプもあれば、自宅に療法士や看護師が来ておこなう在宅のサービスもあるので、どちらが相手に合っているのかは、やはり本人に聞かなければわからないのです。
ところが皮肉なことに、知識や経験が多いケアマネほど、自分の選択に自信を持ち、「この人にはこのケアで決まり」と即断してしまう傾向があります。
ひとくちに高齢者と言ってもいろいろです。しっかり受け答えができる人、認知症が進んでいる人、精神的に不安定な人……。
どんな状態であれ、寄り添いながら、相手がどう考えて、何を望んでいるのかを聞き出すために信頼関係を築くところから始めなければなりません。心を閉ざした利用者にあの手この手でアプローチし、好きな音楽を知ってからはいつもその曲をかけて訪問するという手練れのケアマネさんもいました。
つまり、「よく質問をして、こちらの話をじっくり聞いて、コミュニケーションがとれる人」が良いケアマネといえます。
ケアマネはいつも忙しくしており、一人ひとりのご利用者と向き合う時間が取れないこともあるかもしれませんが、少なくともそのように心掛けていてほしいものです。
もしうまくいかないと感じたら、ケアマネを交替してもらうことは事業所内でも可能であり、もしくは事業所ごと替えてしまうということもできますので、 ストレスを抱えながら付き合う必要はありません。
<注釈>
※1「リハビリ」とは……リハビリテーションの略。高齢者のリハビリは①寝たきりや要介護状態を予防するもの、②疾病の治療とともに早期に開始する急性期のもの、③急性期から機能回復を目指した回復期リハビリへのスムーズな移行、④地域との連携が重要な維持期リハビリ、など各自の状態によって受けるリハビリは異なる。
※2「デイケア」とは……通所リハビリテーションのこと。要介護者が老人保健施設や病院、診療所などへ日帰りで通い、 生活機能向上のための訓練や食事、入浴などの生活支援を受けるための施設。
外岡 潤
「弁護士法人おかげさま」代表
弁護士