収益物件を建て替えたいが、不動産会社が「ムリ」と…
今回の相談者は、70代の山田さんです。所有する収益物件で、困った事態になっているため相談に乗ってほしいと、筆者のもとを訪れました。
「年金の足しにしている貸家があり、古くなったので相続を見越して建て替えたいのですが、不動産会社から無理だといわれてしまいまして…」
山田さんは40代のころ、自宅最寄り駅の隣駅に、貸家として中古の戸建て住宅を購入しました。サラリーマンでしたが、親から相続した預貯金があり、少額のローンを組むだけですみました。返済はすでに終わっています。
急行電車が停まる駅から徒歩3分の好立地で、15万円の家賃にもかかわらず常に借り手がいる状態でしたが、さすがに築年数が40年を超えたため、いまの入居者が出るタイミングで、建て直そうと考えていたといいます。
「見た目も古くなってきて、そろそろ建て直したいと思い、建築会社に相談したんです。そうしたら、建て直しができない土地だというのです。もう、びっくりしてしまって…」
山田さんは、知り合いに紹介してもらった弁護士に話を聞いてもらったそうですが、自分たちには手に負えないといわれ、困り果ててしまいました。
敷地延長の地形、「入り口部分の土地」が10人の共有名義に
筆者と提携先の弁護士は、山田さんが持参した関係資料を確認しました。
それによると、山田さんの土地は、入り口部分の土地と奥の土地の2筆に分かれていることがわかりました。いわゆる敷地延長の地形(旗竿地)ですが、その入り口部分が10名の共有名義になっています。つまり、山田さんの土地は道路がない「袋地」となります。
建物は、公道に面した土地の幅員が2m以上ないと建てられません。このことから、現状では建て替えができないということが確認できました。
貸家を建て替えるには、公道に面した土地の共有者から承諾を得るか、山田さんの名義にまとめて敷地延長の宅地とするのいずれかが選択肢になります。あるいは現状のまま、不動産会社などに売却してしまう方法も考えられます。
「買い取り費用がかかっても、入り口部分の土地を自分の名義にして、建て替えができる土地にしたいです…」
貸家としていい収益が見込めるため、売りたくないのだと山田さんはいいます。
権利分を譲渡してもらうべく、共有者に説明したところ…
筆者の事務所は山田さんの希望を叶えるべく、入り口土地の共有者に状況を説明して回り、理解・承諾を得ることにしました。該当の土地の地目は「公衆用道路」になっており、固定資産税はかかりません。共有者に負担はありませんが、逆にいうと、所有するメリットもとくにありません。
権利分を譲渡してもらうべく、10名の方に説明をしたところ、すべての方が理解を示し、手続きに協力してもよいと快諾してくれました。連絡を取るために時間を要した方はいましたが、全員の意思確認はスムーズに完了できたのです。
その後の手続きを経て山田さん名義の土地になれば、いよいよ建て替えがスタートとなります。
不動産の「他人との共有」は絶対に回避して
本来であれば、山田さんが購入した40年前に、このような状況を確認しておくべきだったといえます。現在は、権利関係についても仲介業者が確認したうえで取引を行うため、同様のトラブルはまずないと思われますが、当時は認識が不足していたのかもしれません。
確認の甘さがツケとなり、令和のいまになって回ってきたわけですが、なにをもってしても、契約内容が重要だといえるでしょう。
今回は、共有者の持ち分をハンコ代程度で譲渡してもらうことができ、結果オーライでしたが、もし道の名義人のうち1人でも反対者がいたり、連絡が取れない人がいれば、山田さんの土地は活用できなくなってしまいます。
不動産においては、他人との共有は絶対に避けるべきだといえます。購入時には、必ず確認するようにしてください。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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