(※写真はイメージです/PIXTA)

駅前の商店街から一本入った閑静な住宅地に、母親(82歳)とふたりで暮らしているAさん(60歳)。5年前に食品卸売業を営む父を亡くし、その遺産で優雅に生活しているように周囲からは見られていました。しかし、その陰で「老後破産の危機」に陥っていたのです……。いったいなにがあったのでしょうか。牧野FP事務所の牧野CFPが、Aさんの破産危機の原因と相続時のポイントについて解説します。

老後破産危機の引き金となった「海外旅行」

一周忌の法要を終えると、Aさんは父の看病疲れを癒すために、母と初めての海外旅行に出かけました。

 

そこで体験した日本とはまったく異なる食文化や絶景に魅了され、Aさんは海外旅行の虜に。自身の貯蓄と父の遺産という潤沢な資金があるという自負から、母の面倒もいつの間にかC夫婦に任せ、その散財ぶりは4年間でヒートアップしていきました。

 

見かねたCさんは、「今度は一緒に行きましょうよ」と誘ってきたAさんにこう忠告しました。

 

「行かないよ、会社のこともあるし。ちょっとさあ、母さんのこともほったらかして無駄遣いしすぎじゃない?」

 

弟の呆れっぷりにようやく我に返ったAさんは、家計収支や自分の貯蓄残高を見て青ざめました。

 

Aさんは途端に母の介護のことや自身の老後のことが心配になり、母と会社の顧問税理士を連れて筆者のFP事務所に相談に訪れました。

 

Aさんと母の家計収支

当時のAさんの家計収支は以下のとおりです。

 

出所:筆者が作成
[図表2]Aさんと母の家計収支 出所:筆者が作成

 

筆者が話を聞くと、母は今後について「父から相続した不動産すべてをAさんに相続したい」さらに「独身のAさんが老いたとき世話をしてくれるであろうCさんの子どもか孫に、自宅の資産を継いでほしい」と話しました。

老後破産回避のために…FPがAさんたちに行った助言

筆者はAさんに、顧問税理士に税制面の確認を行ったうえで、以下の2点を前提としてアドバイスを行いました。

 

<前提>

・元来倹約家の母娘だから、以前のように堅実に、借家2棟の家賃月約38万円などの収入から家計消費をすれば、家計収支は毎月15万円以上の黒字が見込める

 

・介護費用の平均値は[図表3]のとおりで、母の貯蓄などから準備はできる。ただし、認知症の症状などが見受けられたら早急に対応する必要がある

 

出所:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度」を参考に筆者が作成
[図表3]介護にかかる費用平均 出所:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度」を参考に筆者が作成

 

<提案>
Aさんの相続税負担の軽減と納税資金確保のため、母からAさんへ資産を生前に移す

 

具体的には、2024年1月から改正される「相続時精算課税制度」を利用して、母から借家2棟の建屋と、現金を年間110万円の基礎控除の範囲内で生前贈与してもらいます。

※ 現行の「相続時精算課税制度」でできる累計2,500万円までの特別控除とは別に、2023年度税制改正で年間110万円まで基礎控除が認められる。現行法の詳細は国税庁「相続時精算課税の選択」を参照のこと。なお、この借家の敷地は「使用貸借」として無償で母から借りることができる。

 

ただし、Aさんに入る賃貸収入は家計消費の財源でもあるため、生活費の確保と母の資産を減少されるため、母の了解をもらい母の貯蓄を計画的に取崩していきます。

 

これでも資金が不足するようであれば、自宅の敷地の半分を占める庭の有効利用も検討します。

 

◆まとめ

Aさんは、このまま散財し続ければ破産し、母や弟たちに迷惑をかけたかもしれません。しかし、弟の忠告で運よく回避することができそうです。

 

父がの遺産のおかげで「老後も余裕」と思われたAさんですが、「資金が豊富にある」という“油断”から老後破産の危機に陥ってしまいました。

 

「いつの間にかお金がない」という事態に陥らないよう、他人事にせず対策を練っておきたいものです。

 

 

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

 

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