(写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進む近年、高齢者の一人暮らしは決して珍しいことではなく、「孤独死」という言葉が広く取り上げられるようになりました。孤独死により、物件内に遺体が放置された場合、悪臭や汚れが室内に充満し、改修工事が必要となる事態も想定されます。では、賃貸物件のなかで入居者が死亡した場合、オーナーは遺族にその責任を追及することはできるのでしょうか? 本記事では、不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士が、賃貸物件内で入居者が死亡した場合の対応方法について解説します。

事故物件の「告知義務」が生じないケース

家主さんからいただく相談として多いのが、いわゆる「告知義務」についてです。「新たな入居希望者に対して入居者の死亡があったことを告知しなければならないのか?」「入居者が死亡してからずっと告知しなければならないのか?」というものですが、実務ではどのような範囲で認められているのでしょうか。

 

国土交通省が定める「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、居住用不動産で自然死が起きてしまった場合には、原則として、これを告げなくてもよいとしています。

 

老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については、そのような死が居住用不動産について発生することは当然に予想されるものであり、統計においても、自宅における死因割合のうち、9割を占める一般的なものであるためです。ただし、特殊清掃が行われるに至った場合などは例外的に告知が必要となります。

 

「自殺」があった物件の対応方法

一方、入居者が自殺したあと、新たに賃貸する場合には、家主さんは、入居希望者に対して前の入居者が自殺した事実を告知する義務が広く認められています。もし告知しなければ、告知義務を怠ったことが詐欺にあたるとして、入居者は賃貸借契約を取り消すことができる可能性もあります(民法96条1項)。また、入居者は錯誤を理由に賃貸借契約の無効を主張できる可能性もあります(民法95条1項)。

 

なお、これらの場合には、入居者は家主さんに対し、引っ越し費用などの損害賠償を請求することができます。また、場合によっては慰謝料の請求をすることができます。

 

もっとも、自殺があった物件について物件が存在する限り永遠に告知義務が残るとすると、家主さんにとって大きな負担となります。一方、自殺事故による心理的な嫌悪感は、時間の経過とともに少なからず薄まっていくといえるでしょう。

 

自殺後に最初の入居者がごく短期間で退去したといった特別な事情がない場合には、その部屋を別の賃借希望者に賃貸するにあたり、自殺事故があったことを告知する義務はないとした裁判例もあります。

 

自殺事故が起こった場合の告知義務は、具体的には、自殺事故の状況、自殺があった物件の場所、物件の使用状況などさまざまな事情を考慮して決まるものですが、判断に困ることも多いかと思います。判断に困った際には、国土交通省が定める「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を参考にするのがよいでしょう。

入居者が亡くなったら…

入居者が亡くなった場合には、入居者の相続人や保証人に対して清掃費用や損害賠償の請求をすることができる場合があります。また、亡くなった入居者の相続人や保証人に請求できる金額は、死亡の原因や物件の具体的状況によって異なるため、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

 

入居者が亡くなったあとの告知義務は、自然死の場合には原則として発生しませんが、自殺の場合には3年程度告知義務が生じるため、注意が必要です。告知義務の内容や期間は具体的な事実関係によりますが、国土交通省が定める「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が参考になります。


 

森田 雅也

Authense法律事務所 弁護士

 

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