築古アパートを解体したい大家→住民「1,000万円払ってくれないと退去しない!」で訴訟…裁判所が命じた「妥当な立退料」【弁護士が解説】

築古アパートを解体したい大家→住民「1,000万円払ってくれないと退去しない!」で訴訟…裁判所が命じた「妥当な立退料」【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

老朽化が著しく、アパートの取り壊しを決断した大家。立退料を100万円として住人に退去を依頼したところ、そのなかの1人が「1,000万円払ってくれないと退去しない!」と退去を拒否します。このケースにおいて、裁判所は立退料はいくらが妥当と判断したのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際の判例をもとに解説します。

裁判所が立退料100万円での解約を認めたワケ

東京地方裁判所令和2年2月18日判決において、賃貸人側は立退料として100万円が正当であると主張し、これに対して賃借人側は、訴訟段階では200~350万円が妥当であると主張していました

 

これに対して、裁判所は、賃料の約20ヵ月分にあたる立退料100万円での解約申入れを認めています。裁判所が立退料100万円での解約を認めた理由は以下のとおりです。

 

1.建物の老朽具合

まず、建物がどの程度老朽化していたかという点について、裁判所は以下のように耐震診断の結果を踏まえて認定しています。

 

・耐震診断の結果によれば、本件アパートは、

 

①その基礎は無筋状態であり、また数ヵ所にひびがある

②壁は、耐力壁が不足し、少し片寄った状態に配置されているほか、外壁モルタルにひびがある

③老朽が進んだ箇所は、地震時の揺れに軸組が耐えられない状況も想定される

 

などとされたうえ、建築基準法の想定する大地震で倒壊する可能性が高いとされたうえ、建物の縦方向と横方向で評価される評点(住宅が保有する耐力が必要耐力に占める割合を数値化したものである)が1階においては0.32と0.45、2階においては0.65と0.73とされた(評点が0.7未満の場合に「倒壊する可能性が高い」と判定される)

 

・本件アパートの耐震補強工事費用が1,650万8,000円(消費税別)と見積もられていた。

 

2.貸主の「正当事由」が認められるか否か

上記認定を前提としたうえで、「正当事由」が認められるか否かについては、以下のように立退料の提供により正当事由が認められると述べています。

 

■正当事由について

 

「本件アパートは、本件解約申入れ時において、築45年以上が経過しており、本件アパート全体の老朽化が顕著であって、かつ耐震性の観点からみても倒壊の可能性が高く、また耐震のための工事には相応の費用を要するものということができるから、原告らにおいて本件建物を含む本件アパートの取壊しの必要性が高いものということができる」

 

「また、共同住宅である本件アパートの収益物件としての機能を維持するためには、相応の修繕費用を支出する必要があることは優に認められ、

 

本件アパートの状態や固定資産税評価額、本件契約の賃料等に照らしてみると、その方法として修繕が適切であるということができないから、この観点からも本件アパートの取壊し(または建替え)の必要性が補強される(もっとも、原告らにおいて、本件アパートを建て替えたり、その敷地等を第三者に売却したりする具体的な計画は見当たらず、原告らによる自己使用の必要性が直ちに認められないなどから、この観点は重視することができない)」

 

「一方、被告は、本件建物を住居と使用し、本件解約申入れ時における賃料滞納事実が見当たらないことからすれば、本件建物使用に対する期待を保護する必要性が一定程度認められる

 

「そうすると、本件解約申入れについて、上記の事情から、ただちに正当事由があるとまではいえないが、正当事由を基礎づける事実が相当程度認められるものというべきである」

 

■正当事由の補完としての立退料について

 

「上記のとおり、正当事由を基礎づける事実が相当程度認められるものというべきであるところ、

 

これに加え、被告に対する移転先の物件の紹介事実といった交渉経過、本件訴え提起時には、本件アパートには被告の他に居住者がいないこと、その他本件契約の賃料、本件アパートやその敷地の固定資産税評価額等の事情を総合考慮すれば、

 

原告らによる申出額であり、本件契約の賃料の20ヵ月分以上に相当する100万円を正当事由の補完としての立退料と認めるのが相当である」

 

※この記事は2022年10月10日時点の情報に基づいて書かれています(2023年7月3日再監修済)。

 

 

北村 亮典

大江・田中・大宅法律事務所

弁護士

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを、北村氏が再監修のうえ、GGO編集部で再編集したものです。

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