本件の場合は、やはり写真等で現状を確認しないと分からないところはありますが、原則どおり損傷・汚損箇所に限ったm2単位の部分補修の負担、あるいは賃貸人が全面を張り替えるというのであれば、当該部分に限った費用負担、ということが妥当と考えられます。
大家さんの理屈が通れば、結局ごく一部に汚損・破損があったとしても色むら等々の理由で常に全面張り替えとなってしまい、賃借人に過大な負担をかけることになってしまいます。
ガイドラインの法的効力については、ガイドライン自体は法律ではないので厳密な意味での法的効力はありません。ただし実務がガイドラインで運用されているので、例えば裁判等になった場合には原状回復の有無・程度等はガイドラインに沿って判断されることになります。
また例えば賃貸借契約の特約で、ガイドラインの基準を超えた、例えば入居時の状態にまで回復すべきというものがあった場合には、裁判例ではその必要性の有無や暴利的ではないかどうか、賃借人がその特約について充分に理解した上で応じているのか、等を慎重に判断して特約の効力を判断しているようです。
大家さんの主張に納得が行かない場合、当然ながら大家さんにご自身の考えをお伝えして交渉すべきですが、当事者同士だと感情的になるなどうまく話が進まない場合があります。
そのような場合、少額訴訟(60万円以下の金銭トラブルに限って利用できる手続)や民事調停(裁判所における話し合い)などの利用を検討すべきでしょう。また、大家さんの主張に法的に問題はないのかとの問いですが、脅迫や詐欺に該当するようなものでないかぎり、主張そのものが違法とまではいえないでしょう。
入居時の状態をチェックしておけば
原状回復に関するトラブルについては私もよくご相談をお受けします。
その中では、大家さんの請求が過大と考えられるものもありますし、一方で退去時の写真などを見て「これは結構汚してしまっているな……。ある程度の負担はやむを得ないな」というものもあります。
よくある争いは、その汚れや破損が元々から(入居前から)あったのか、あるいは入居後に付いたのかというものがあります。これは入居時に大家さん、入居者双方が入居時の状態をチェックしておけば防げることです。また入居者についても、入居時の室内の写真は残しておくなど、証拠を保全することがトラブル防止につながります。
さらには賃貸借契約書についても、入居者に不利な条項や特約がないか、契約締結前によくチェックすることが大切です。
また、「住むことで通常生じる汚れやくすみ」は入居者の原状回復義務の範囲外とは言っても、やはり常識の範囲内での手入れ、掃除は当然ながら必要です。
ガイドラインは入居者の原状回復に関する過大な負担を避けるためにありますが、「ずぼらな入居者」をフォローするためにあるのではありません。
最近はペット可の賃貸物件も増えてきましたが、ペットの糞尿や引っかき傷でボロボロになった柱やフローリング、クロスなどは、やはり入居者が原状回復に関して相応の負担をする必要があります。借家とは言えきれいに使って、退去時には「立つ鳥跡を濁さず」でいきたいものです。