(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸住居では、退去時にトラブルが起こることは珍しくありません。特に問題になりがちなのが、原状回復費用について。「そんなに傷めていない」「費用が高すぎる」など、見解の相違による紛争は絶えません。国土交通省からガイドラインが発行されているものの、目安程度ともいわれ、落とし所が見出しづらいのが実情です。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、退去時の現状回復トラブルについて、北條将人弁護士に解説していただきました。

一部損傷に対し、全額補修費を出せと言う大家に不信…

相談者は、 今年4月末までペット可の築18年のタワーマンションに賃貸契約で1年間居住していました。

 

契約満了による退去時に、管理する不動産会社の立ち合いで部屋の状況を確認。その際、リビングのフローリングにできた損傷部分の補修について、相談者が大家に相談したところ、リビング、キッチン、廊下の全面15畳の上張り費用の60万円の請求を口頭で言われたそうです。なお、敷金は0円、クリーニング代10万円は契約書に記載されており、支払い済みです。

 

詳細な損傷状況は、ペットの尿がフローリングに染みてしまったことによる1m2範囲の黒いシミと長さ20cm×幅2cmほどの表面材の剥がれです。損傷箇所はリビングの角部分で、フローリングはキッチンと廊下に繋がっている構造となっています。

 

相談者は、国土交通省が発行している原状回復のガイドラインに沿い、「全面上張りではなく損傷した1~2m2の部分補修について全額負担」を希望しています。もしくは、大家の判断で全面上張りする場合は、その損傷部分だけの費用をm2単位で支払う意向です。

 

大家側としては、「部分補修だと耐久性が悪く、その部分だけ色が変わってしまう」とのことで全面上張りを主張しています。相談者としては、損傷させたのは事実だが、あくまで床の一部分であり、全額の補修費負担は納得がいきません。

 

そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。

 

(1)原状回復のガイドラインには「最低限度の施工単位」の表現がありますが、今回のケースではそれが「部分補修」と考えていいのか。また、ガイドラインの法的効力はどの程度あるのか。

 

(2)大家の主張に納得できない場合、法的にはどのような対応で納得いく支払い額へ持ち込むのが最善か。そもそも大家の主張は、法的に問題はないのか。


裁判になったらガイドラインに沿って判断

かの楽聖ベートーベンは有名な「引っ越し魔」で、生涯に80回近く引っ越しをしたそうです。

 

その理由も「掃除が嫌いで部屋を派手に汚した」、「ピアノの騒音などでの隣人トラブル」という説があります。おまけに借家なのに景色が良くなるからといって勝手に壁に穴をあけたこともあるとか。クラシックなのにパンクなエピソードです。

 

こういう人は、大家さんとしても近隣住民としても、全く住んでほしくない「ヤバい借主」なのですが、原状回復はどうしたのでしょうか。「ベートーベンの家」として箔がつくので、大家さんも大目に見たのでしょうか。

 

住めば箔がつく楽聖とは違い、住めば部屋に汚れ・くすみがつく我々一般人は、賃貸住宅の退去時には「原状回復」をしなければなりません。原状回復とは賃借人が住んだことによる建物の損耗(汚れ、破損など)のうち、賃借人の故意・過失によもの、不注意によるもの、その他通常の使用を超えるような使用による損耗などを復旧すること、と言われています。

 

つまり、部屋は普通に住んでいるだけで、そのうちフローリングに微細なキズがついたりクロスがくすんだりするなど建物の価値が減少していきます。しかし賃借人は住むことの対価として賃料を賃貸人に支払っているのですから、住むことで通常生じる汚れやくすみと言ったものは、いわば賃料の中に織り込み済みであり、これを元通りにして入居時の状態にまで戻す義務はないと考えられます。

 

既に設問中にありますが、原状回復義務については国土交通省からガイドラインが示されており、実務ではこれを原状回復の目安にしています。

 

ペットの尿自体はよくあることなので、こまめにふき取るなどしておけばよかったのですが、手入れ不足等で染みが生じたのであれば、やはり原状回復は賃借人の負担となるでしょう。また表面材の剥がれは実際の状況をみてみないと正確には答えられませんが、故意で傷つけた、あるいは物を落としたり引きずったりしてついたのであれば、やはり賃借人の負担となりそうです。

 

その場合、賃借人の負担単位については、原則、m2単位ですが、キズ、汚れ等が複数個所あるような場合には全体的な補修について負担となることもあり得ます。

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