(※写真はイメージです/PIXTA)

個人経営の病院を長男に継がせたい場合、兄弟間の相続トラブルを防ぐためには、生前にどのような対策が必要なのでしょうか。実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、相続で揉めない遺言書の書き方とともに、個人経営の病院においての承継の注意点を解説します。

「個人経営のクリニック」を長男に継がせたい

【相談の概要】

Aは個人でクリニックを経営している院長で、現在65歳です。医療法人ではなく、今後も医療法人化する予定はありません。クリニックの土地・建物、医療機器はAが所有しています。相続人は、医師である長男Bと医師ではない二男Cです。

 

長男Bに院長の座を譲りたいと考えていますが、注意すべきこと、今から検討すべきこととして具体的にどのようなことがありますか。

 

【相談を受けた弁護士の回答】

生前承継の可能性を探りつつ、遺言書を作成して相続発生に備えた対応が必要であると考えられます。

 

個人クリニックで、経営者とオーナーが同一のAであるため、事業である医業の承継と、院長個人の財産の相続両面から対策を講じる必要があります。また、医業の承継に伴う各種手続や従業員の雇用契約の対応も準備しておく必要があると考えられます。

1.事業承継の方法

代表的な事業承継の「3つの方法」

会社や事業の事業承継には、代表的に、①親族内承継、②親族外承継及び③外部への引継ぎ(M&A等)があります。

 

親族内承継は、経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法です。一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産を後継者に移転できるため、個人資産も含めた一体的な承継が期待できるといったメリットがあるといわれます。

 

親族外承継は、親族以外の役員・従業員に承継する方法です。経営者としての能力のある人材を見極めて承継することができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがあるといわれます。

 

外部への引継ぎ(M&A等)は、株式譲渡や事業譲渡等により承継を行う方法です。親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがあります。

 

検討する順序

一般的には、まず後継者を確保できるかどうかという点から検討をはじめ、親族内に後継者が確保できる場合には親族内承継を検討することになります。次に、後継者が親族内におらず、親族外、従業員等にいる場合には、親族外承継を検討することになります。

 

また、いずれにも後継者が不在の場合には、外部への引継ぎを検討することとなり、難しい場合には、廃業も選択することがあり得ます。

 

3つの承継方法に個人クリニックを当てはめると…

個人クリニックの承継にあっても、大きく異なることはなく、①親族内承継、②親族外承継及び③外部への引継ぎ(M&A等)を検討することとなります。

 

親族内承継については、個人クリニックの経営者の子は、将来院長として後継者になることを念頭において医師を目指す場合も多く、スムーズに承継ができる場合が想定され、また、従業員や患者からも理解を得られやすい可能性が高いです。

 

親族外承継では、勤務医や外部の医師等から院長の適任者を見極めて承継する方法が考えられます。ただし、不動産、動産又は機器などの高額の資産を含め、事業を譲り受けるには、後継者に資金力が必要となる場合があります。事業は親族外で承継するものの、一定の収益を子に残したい場合、事業用の不動産を子に相続させるか売却し、当該不動産についてクリニックを引き継いだ方との間で賃貸借契約書を締結して、賃料収入を得られるようにすることも考えられます。

 

外部への引継ぎでは、クリニックの事業価値、資産価値の計算の他、雇用の維持など院長の希望に沿う条件に応じてくれる売却先を見つけることに困難が伴う場合があります。

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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