(※写真はイメージです/PIXTA)

個人経営の病院を長男に継がせたい場合、兄弟間の相続トラブルを防ぐためには、生前にどのような対策が必要なのでしょうか。実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、相続で揉めない遺言書の書き方とともに、個人経営の病院においての承継の注意点を解説します。

4.相続による承継

(1)相続承継における遺言書の文例

生前に一定程度クリニック承継の準備をしながら、遺言書による相続での承継を行う場合、次のような内容の遺言書が考えられます。

 

出所:東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集『依頼者の争族を防ぐためのケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)
【図表】遺言書例(事業継承に関する該当条項のみ) 出所:東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集『依頼者の争族を防ぐためのケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)

 

(2)文例に関する説明

ア.相続人及び相続させる財産の特定について

文例の①は、事業に関わる各種財産を後継者である相続人に相続させることを内容とするものです。ここで漏れが生じてしまうと、相続人全員で遺産分割協議をしなければならないため、漏れなく記載することが望ましいです。また、財産的に評価の難しい屋号等の無体財産についても対象にしています。

 

イ.遺言執行者について

文例の②は、遺言執行者に関するものです。遺言執行者とは、遺言を執行する者のことで、遺言内容を実現するために、相続財産の管理等一切の行為(遺言に基づく権利移転の実現や、それに必要となる事務手続を行うこと)をする権利義務を有する者です(民法1012条1号参照)。

 

遺言執行者は、遺言内容の実現のために、当該預金の管理処分が遺言者の指定した者によってなされるように手続や準備を実施すべき義務を負います。したがって、遺言執行者を指定した方が、事業承継に必要な財産承継という遺言内容の実現がより確実なものになるといえます。

 

ウ.付言事項について

文例の③は、付言事項に関するものです。遺言書では、付言事項として、相続人間の紛争を避けるために、遺言者の意思や気持ちをしたため、相続人に理解を求める場合があります。付言事項は、遺産の処分そのものについてのものではありませんが、相続人の心情への配慮をし、クリニックの承継をより確実にしようと試みることが考えられます。

5.留意事項

(1)事業用財産以外の財産の相続

遺言書の文例では、事業用資産を対象とした例を置いていますが、個人で経営しているクリニックの相続の場合、事業用資産以外の資産もすべて相続の対象となります。

 

事業用資産以外についても、遺言書には記載し、誰がどの遺産を取得するのかどうかを指定する必要があります(指定がない場合、遺産分割協議をしなければならず、事業承継に支障を来すおそれがあります)。その際、(2)に記載の遺留分への配慮をしつつ、指定を行っていくことが重要です。

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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