相続人の範囲に関する紛争
【相談の概要】
被相続人Aの戸籍上の相続人は、配偶者であるBと、Aの姉であるCのみです。AとBは、30年以上前から長く同居し事実婚状態にありました。
Aが死亡する約1か月前に、BがAとの間の婚姻届を届出したため、Aは死亡時点ではBとの間で戸籍上は婚姻関係にありましたが、Bが提出した婚姻届のAの署名押印は、Bにより代署、代印されたものでした。またAは、Aが死亡する2か月前には持病の腎不全が悪化し、せん妄状態に陥り意思疎通をはかることができない状態にあったことが病院の医師作成の診断書から判明しています。
CはBによる婚姻届けの提出時にAに婚姻意思があったのか疑問を持っており、Bの相続人としての地位の有無、それを争う方法について弁護士に相談しました。
【相談を受けた弁護士の回答】
戸籍の記載上、BはAの配偶者であるため、戸籍の記載に従って判断するとBに配偶者としての相続分が認められることになりますが、婚姻届についてBが代署、代印したという事実や、婚姻届出時点においてAが持病の悪化により意思疎通ができない状態にあったということからすれば、Aに婚姻意思があったとはいえず婚姻が無効である可能性があります。
ただし、遺産分割調停や審判ではその前提問題となるBの相続人としての地位の有無を確定させることができないため、まずは、AとBとの婚姻が無効であることを確認する調停を申し立て、調停が整わない場合は訴訟によって解決します。
1.遺産分割の前提問題
相続人の範囲、遺産の帰属等の問題は、遺産分割手続の前提問題とされ、具体的な分割方法を定める前に確定しておかなければならない問題です。
民法は、相続人の範囲を配偶者相続人と血族相続人と定めています(民法887条1項、889条1項、890条)が、実際に相続人に該当するか否かは、もっぱら被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を確認することで確定されます。ただし、本相談にもあるとおり、具体的な事案によっては、戸籍上の記載のみでは相続人の範囲を確認できない事例もあります。
2.相続人の範囲に関する紛争類型
相続人の範囲に関する紛争類型は、大きく分けて以下の類型が考えられます。
(1)法定相続人か否かが争われる場合
(2)相続欠格事由に該当し相続人資格を喪失した場合
(3)相続の放棄、相続分の譲渡が行われた場合
本項では上記(1)について解説をします。上記(1)に関しては以下述べるとおり専ら人事訴訟の問題として処理されるところ、(2)及び(3)に関しては、相続権の存否確認の訴えとして民事訴訟で相続人の範囲を確定するという点に違いがあります(相続欠格事由及び相続分の譲渡、放棄については本章第3の1の該当箇所を参照してください)。
3.相続人が法定相続人か否かが争われる場合
被相続人との間の身分関係の存否に関する紛争のうち、①身分関係の形成に関する事項(婚姻取消し、協議上の離婚の取消し、養子縁組取消し、協議上の離縁の取消し、父を定める訴え、認知、認知の取消し及び嫡出否認等)については遺産分割協議、調停、審判では確定することはできず、必ず人事訴訟又は合意に代わる審判によらなければなりません。
また、②身分関係の確認に関する事項(婚姻無効、協議上の離婚無効、縁組無効、協議上の離縁無効及び親子関係不存在等)は、その効力が人事訴訟等により形成されるわけではありませんが、家庭裁判所において遺産分割の前提問題として判断されたとしても、後日人事訴訟等により遺産分割審判と異なる判断が確定した場合には、遺産分割審判はその限度で効力を失う(最大判昭和41年3月2日民集20巻3号360頁)ため、実務上はやはり遺産分割の前提問題として、
①身分関係の形成に関する事項と同様に人事訴訟による解決を促され、係属中の遺産分割事件はいったん取り下げ、人事訴訟の結論が確定してから再度遺産分割事件を申し立てる取り扱いです。
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