(※写真はイメージです/PIXTA)

父が逝去し、トラブルのもととなったのは、生前の父が集めていた骨董品と、先々に母しか入る予定のないお墓の今後。母と娘2人の意見が大きく食い違ってしまい、調停申し立てをすることに……。本記事では、実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、墓じまいと骨董品の形見分けにおける円滑な対処法を解説します。

墓じまい、骨董品の形見分けはどうする?

【相談の概要】
父Aが亡くなり、法定相続人は、母B、姉C及び私Dです。亡Aの遺産については、不動産・預貯金・株式等があり、BとC・Dとの間で意見の食い違いが大きく、調停を申し立てるしかないと考えています。遺産のほか、姉Cも私も嫁いでおり、Bも高齢であるため、今後、家の墓(亡Aが祭祀承継者)をどうすればよいのかが問題になっています。

 

なお、同墓には、亡A及びその両親が納骨されていることは明らかですが、それ以前の詳細は不明です。亡Aには兄弟姉妹がおらず、B、C及びDの他には承継をする者がいません。また、亡Aは骨董品(皿・壺)を集めるのが趣味であり、その中には私にも思い出があって欲しいものがありますが、すべてBが管理しています。このようなものは遺産に入るのでしょうか。そしてどのように分けるのでしょうか。

 

【相談を受けた弁護士の回答】

1 墓の問題

墓は、祭祀承継者がその使用権等を承継するところ、祭祀承継者について、亡Aによる指定がなければ、(慣習によることは実際にはないため)家庭裁判所に審判を申立てて決めてもらうしかなく、祭祀承継者が決まれば、その者がこの墓の処理を決めることになります。

 

祭祀承継者の指定の審判は遺産分割とは別個の審判事件であるため、遺産分割調停とは別途申立てが必要になるが、遺産分割調停において当事者全員の同意があれば、同調停において、祭祀承継者を指定して祭祀財産を取得させるとの条項を入れることは可能とされています。

 

このため、まずは、遺産分割調停の中で話し合いを持ちかけてみるのもよいでしょう。また、墓を承継するのが全員現実的に難しいとなった場合には、墓じまいも検討されます。

 

2 骨董品の分け方

骨董品など動産を遺産分割の対象とするためには、特定が必要となりますが、骨董品の特定は難しく、今回のようにBが保管している骨董品の特定はさらに難しいようです。特定できない場合には、調停・審判による遺産分割の対象からは外され、形見分けとして分けることを勧められることが多いようです。

1.祭祀承継者

(1)祭祀承継者指定の調停・審判

墓石・墓碑など遺骨を葬っている設備は、「祭祀財産」の一つである墳墓であり、祭祀財産(墳墓のほか、系譜・祭具)は、相続財産を構成せず、祖先の祭祀の主宰者(「祭祀承継者」)に帰属し、祭祀の主宰者は、第一に被相続人の指定により、第二に慣習により、第三に家庭裁判所の審判により定まるとされています(民法897条、家事事件手続法39条・別表第2の11項)。

 

今回は、被相続人の指定がなく、慣習が存在するということは現実的には見受けられないため、これを定めようとする場合には、家庭裁判所に対する審判申立てをすることになります。

 

祭祀承継者指定は調停前置主義(家事事件手続法257条)の対象事件ではありませんが、事案によっては、裁判所の職権により調停に付されて調停での話し合いを求められる可能性があります。審判における祭祀承継者決定の基準については、次の高裁決定が参照されますので、これを前提に具体的事情・経過を詳細に明らかにする必要があります。

 

「この点については、承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、

 

祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」(東京高決平成18年4月19日判タ1239号289頁)

 

祭祀承継者が定まれば、その者において、墓の使用権等の権利を有するとともに管理料等の支払義務を負うことになります。

 

(2)遺産分割調停における協議・調停条項

上記(1)のとおり、祭祀承継者指定は審判事件ですが、遺産分割調停において、当事者全員の合意があれば祭祀承継者の指定の条項を含めての調停成立は可能とされていますので、遺産分割調停を申し立てるということであれば、まずはその中で協議することが有効な場合があります。

 

【遺産分割調停にて祭祀承継者を指定することを合意した場合の条項例】

「当事者全員は、被相続人の祭祀の承継者を申立人と定め、申立人は、その祭具及び墳墓の権利を承継する。」

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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