スキルには賞味期限がある
「スキル報酬」とは、文字通り複業によって自身のスキルを身につけることを報酬と捉える考え方です。
今の職場だけでは身につけられないスキルはきっとあるはずです。例えば、営業職をしながら同じ職場でプログラミングの新スキルを身につけることはなかなか難しいでしょう。逆にエンジニアをしながら本業で法人営業や新規開拓のスキルを身につけることも難しいです。
同じ職場では自分や組織に課せられている目標を達成することが最優先となり、その対価として給与という金銭報酬が支払われているため、すぐに希望する部署へ移動したり、異業種でのスキル獲得を目指したりすることは困難に近いといえます。
もしあなたが今の仕事におけるスキルのスペシャリストを目指している場合、新しいスキルの習得には興味がないかもしれません。しかし、先行き不透明な現代においては、現在の市場価値が高いスキルも、いつかは賞味期限が到来します。
その市場価値はどう定義されるのか。何が市場価値を決めるのか。答えはシンプルです。そのスキルに世間からの需要があるかないかです。
入手困難な希少価値の高いモノに高い値が付けられることと同様に、スキルにおいても市場相場は需要に応じて変化します。例えば、ITエンジニアの世界において10年前に使われていた開発言語は時を経てモダンな開発言語に取って代わっています。
営業において自社商材の販売をするスペシャリストになったとしてもその商材の価値が下がれば、商材特有の営業スキルは需要がなくなってしまいます。例えば、ガラパゴス携帯の販売スキルを極めたとしても、今はiPhoneに代表されるスマートフォン全盛期であるため、必然的にスキルの価値が変動します。
つまり、本業で身につけることができないスキルを複業で「スキル報酬」として獲得することで、将来の市場価値を最大化することができるのです。将来の大きなリターンを得るための「投資」と言っても過言ではありません。
時代と共に変わるスキルの価値
近年、学び直しを意味する「リスキリング」が欠かせない考え方となっています。
それは、日々めまぐるしく変化している社会において、何ができる人間なのかを示す「スキル」を持つことが重要視されるようになったためといえます。流行りのSNSであるInstagramの投稿にハッシュタグをつけるように、自分に「スキル」というハッシュタグをいかに多く、そして求められるスキルタグを装備できるかが、非常に重要な時代です。
また、社会から求められるスキルは多様化しています。例えば、製造現場や地方自治体などでは急速にDX化が求められるようになったことでDX人材のニーズ(市場価値)が高騰し、もはや正社員では採用が困難な状態に陥ったため、企業は、自社で育てるか、外部から複業などで採用するか、という選択が求められています。
今後も新しいスキルが次々と台頭してくる中で、スキルの市場価値に敏感になり、自ら学び直すことが求められているのです。
リスキリングの重要性が高まっている今、多くの企業が社員のリスキリングのためにさまざまな施策を進めています。例えば、教育システムの導入や企業間連携などが挙げられますが、従業員に対する複業容認もその一つです。
習得すべきは「再現性」「汎用性」のあるスキル
スキル報酬を目的とする複業において重要なことは、将来的に価値の下がる「スキル報酬」を得ることはできる限り避けた方が良いということです。
価値が下がらないスキル報酬は「再現性のある汎用的な経験・スキル」です。オンライン化によるDXニーズの高まりのように、今後も次々と新しいスキルが必要とされます。
しかし、必要とされるスキルを未来に行って確認することは不可能であり、仮に未来を予知し、スキルを習得したところでまた年数が経てば次のトレンドスキルが出てきてしまいます。
そこで、私は再現性のある汎用的な経験・スキルこそがこれからの時代に重要になってくると断言します。そしてその経験やスキルは、複業で身につけることをオススメします。「再現性」とは、どんな企業フェーズでもどんな業界・団体でも一定のアウトプット(成果)を再現できる能力です。
いまや働く先(複業先も含む)は民間企業に留まりません。たとえば民間企業で働く人が、休日に地元の自治体で複業をするというように、場所・ジャンルを問わず活躍できる環境があります。近い将来は今よりもっと複業が一般的となり、ベンチャー企業から大手企業へ、大手企業からベンチャー企業へ、自治体から民間企業へ、自治体から他の自治体へ複業をするなど、企業規模や種類を超えた、いわば「越境」した人材流動が当たり前になっていきます。
「大手企業でしか経験がないために、ベンチャー企業でスピード感のある業務に慣れておらず、思うように成果が出せない」「ベンチャー企業でしか経験がないために、大人数でのプロジェクトに慣れておらず、自分の強みを発揮できない」という越境経験不足からくる活躍機会の損失は市場価値にも大きく影響することになると予測しています。
さらに、再現性に加えて「汎用性」を持たせることが重要です。汎用とは、広辞苑第七版によると「一つのものを広く諸種の方面に用いること」*とされています(*参考文献:新村出(編)、2001年、『広辞苑第七版(普通版)』)。汎用性は市場価値の算定において非常に重要です。
例えばあなたが、大企業で1億円もの多額の予算をもってマーケティングをしているとします。もちろんそれは誰もができる経験ではないため、立派なスキルとなります。
しかし、あなたがベンチャー企業で大きな予算を割かずにマーケティングすることを求められた際、今までの経験をトレースし、そのまま活かせるかと言うと少し難しいのが現状です。
理由はフェーズ(企業フェーズ、規模、予算など)の乖離が大きいからです。つまりせっかく汗水流して培ってきた貴重な経験・スキルは、汎用性を持てない限り、場所が変われば、「再現性」がないと判断されてしまう可能性が高いということです。
実際にあなたが複業をはじめるとき、複業先の企業と採用面談をするでしょう。そのとき、多くの企業が重視するのは「経験・スキルを汎用的に活かすことができるか」です。汎用性があなたのスキルの再現性の証拠となります。
特に、複業の採用現場においては、誰もが知る大手企業での経験よりも「自社と同じフェーズで課題解決をしてきたかどうか」「解決できる再現性を持っているか」が圧倒的に重要になることも往々にしてあります。
あなたが何かに悩んでいるときに相談するなら、同じ悩みを解決してきた人に相談したいですよね?
複業人材を受け入れる企業側も同じ考えを持っています。
スペシャリストかつ、専門的スキルが求められる時代であるものの、先述の説明の通り、今の市場価値が高いスキルもいつかは賞味期限が到来します。
もしかすると明日、自身のスキルに代替される画期的なITツールが導入される可能性もゼロではありません。
これからは「スキル報酬」という発想の元に複業を積極的にはじめることで自身に新たなスキルを付与し、どんなフェーズでも対応できる柔軟な人材が求められるでしょう。環境や状況が変わっても自身の市場価値にボラティリティー(価格変動性)が無い状態を目指していくために「スキル報酬」を目的とする複業もオススメです。
世代問わず、すべての人に必要とされているリスキリングに、まずは複業で挑戦してみましょう。
大林 尚朝
複業エバンジェリスト
株式会社Another works 代表取締役
1992年生まれ、大分県出身。早稲田大学法学部卒業。
2015年、パソナグループ入社。顧問やフリーランスなど業務委託人材紹介の新規事業に従事。年間最優秀賞など多数受賞。2018年、株式会社ビズリーチ(現.ビジョナル株式会社)入社。M&Aプラットフォームの事業立ち上げを行う。
2019年、株式会社Another works創業。複業したい個人と企業や自治体を繋ぐ、成功報酬無料の総合型複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を開発・運営。創業4年で累計1,000社以上が導入、50,000名以上が登録、70自治体以上と複業での地域活性に係る連携協定を締結、テレビや新聞など400件以上の掲載実績を誇る。
複業、経営・組織戦略、キャリア構築、地域活性をテーマに発信し、行政や教育機関をはじめ100件以上に登壇、「日本経済新聞」など多数のメディアでも取り上げられている。