やっぱり次男に会社を継がせたい…元・社長候補の長男へすでに「自社株5%」を渡している場合の「揉めない生前対策」【弁護士が解説】

やっぱり次男に会社を継がせたい…元・社長候補の長男へすでに「自社株5%」を渡している場合の「揉めない生前対策」【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

Aさんは自身の経営する株式会社の承継について悩んでいました。もともと長男に継いでもらおうと株式の一部贈与までしていたのですが、最近になって優秀な次男Dに継いで欲しいと考えが変わったためです。このような場合、さまざまなトラブルが予想されますが、生前どのような対策がとれるでしょうか? 実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、解説します。

4.少数株主を排除する「スクイーズアウト」の実施

このままでは兄弟仲悪化→会社運営の障害となる可能性も…

本問では、Aは当初Cに事業を承継させたかったのですが、その後Dに事業を承継したいと考えるに至ったものの、既にCが5%の株を保有しています。5%程度であれば、株主総会における特別決議の支障にならない程度であるため、Aが保有する株式をDへ承継すればよく、Cの保有株式については特に対策を取らなくてよいという考えもあり得ると思われます。

 

しかしながら、Cとしては当初承継者と目されながらDが承継者となることを良く思っていない可能性や、それもあり兄弟仲が悪化する可能性がないとはいえません。そのような場合に、Cが少数株主権を行使して、会社の運営に支障を及ぼすおそれがあります。

 

このようなことが想定される場合には、AとしてはCの株式を買い取るか、それに応じない場合には、少数株主排除といわれるスクイーズアウトを実施することが必要となります。

 

スクイーズアウトの実施方法

スクイーズアウトの方法としては、株式併合、特別支配株主の株式等売渡請求、全部取得条項付種類株式の利用等が考えられます。以前は全部取得条項付種類株式がよく利用されていましたが、株式併合や特別支配株主の株式等売渡請求制度の方が簡便なため、最近はあまり使われていません。

 

本問では、Aが、特別支配株主の株式等売渡請求の要件となる90%以上の株式を保有しているため、同請求によるスクイーズアウトが可能です。

5.A保有の株式の承継はどうする?

A保有の株式の承継については、生前贈与あるいは死因贈与、遺言、売買などで承継させることが考えられます。

 

生前贈与の場合には、Aが退職し、退職金を受領するタイミング、すなわち、株価の引き下げが可能となる段階で贈与し、承継するDの負担を軽減することが考えられます。ただし、生前贈与をすると仮にDが心変わりした際に業務遂行にストップをかけることができなくなるため、Aが拒否権付種類株式、いわゆる黄金株を1株保有することにより、そのデメリットに対して対策を取ることが考えられます。

 

また、生前贈与の場合には贈与税の負担が懸念されますが、毎年少しずつ贈与を実施して暦年課税における基礎控除(贈与税の課税に当たり、贈与を受けた金額につき、年間110万円まで控除されます。)を利用する方法のほか、一気に贈与を実施して相続時精算課税制度(贈与があっても、相続時までは課税せず、相続時に遺産と一緒に相続税率で課税して精算する制度です。この制度を使えば2,500万円までは相続時まで納税が猶予されます。)により贈与税の対策を取ることが可能です。

 

Dの心変わりなどを懸念する場合には、遺言あるいは死因贈与による対応が考えられます。ただし、この場合には株価対策を取ることが難しく、相続税の負担がDに重くのしかかる可能性があります。

 

これらのDへの贈与あるいは遺言による承継の場合には、Cの遺留分侵害が懸念されるところです。この関係では株価対策を取ったうえで、DがAから株式を時価で購入する方法が考えられます。この場合には、株価対策を取っていても、Cに譲渡益が発生し譲渡所得税が課税されることになります。また、Dの資金調達の面が問題となります。ただ、Dが時価で株式を購入する方法は、将来のCから遺留分侵害額請求を受けるリスクがない点でメリットがあります。

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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