6.中小企業は特例を活用し、遺留分対策を
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律と遺留分に関する民法の特例
中小企業において、家族間で遺留分紛争が起きることは、そのまま企業の弱体化、廃業につながりかねません。そこで、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」といいます。)が定める遺留分に関する民法の特例(円滑化法第2章)の適用を検討することが考えられます。
円滑化法では、合意があれば相続前に遺留分に関する民法の特例を受けることができる制度で、「除外合意」と「固定合意」があります。
「除外合意」は、後継者が旧代表者から贈与等により取得した株式等の全部又は一部について、遺留分算定の基礎となる財産に算入しないという合意です(円滑化法4条1項1号)。
「固定合意」は、後継者が旧代表者から贈与等より取得した株式等の全部又は一部について、遺留分算定の基礎となる財産に算入すべき価額を相続時ではなく、合意時の価額とする合意です(円滑化法4条1項2号)。
これらの合意ができれば承継者以外の相続人に対する遺留分対策となりますが、その適用の要件として、
①先代経営者の推定相続人(ただし、兄弟姉妹を除く。)全員の書面による合意があること
②対象企業が、3年以上継続して事業を行っている非上場の中小企業者(円滑化法2条で業種、従業員数等が細かく規定されています。)であること
③株式を譲渡する先代経営者は、過去又は現在の会社の代表者であること
④後継者が合意の時点で対象会社の代表者であること(なお、先代経営者の推定相続人である必要はありません。)
⑤後継者が自己保有株式及び贈与対象株式を合算して会社の議決権の過半数を保有していること(もともと議決権の過半数を有していた後継者には適用されません。)
⑥合意後1か月以内に当該合意に関する経済産業大臣の確認を申請し、確認受領後1か月以内に家庭裁判所の許可を得ること
が必要となります。
このように、手続きが複雑なため利用件数は多くありませんが、遺留分に関してメリットがあるため、利用の可否を検討することが望ましいと考えられます。
7.不動産の承継
遺留分の対策との関係から、不動産は、Dに承継をさせる必要がない場合には、遺言によりCに相続させるのがよいでしょう。ただし、Dが事業を承継するにあたり、Aが会社の債務の連帯保証となっており、自宅不動産がその担保に入っている場合には、金融機関との関係で融資の継続を考えると、連帯保証債務とともに自宅をDに相続させた方がよいでしょう。
また、Bが自宅での居住を希望していますので、配偶者居住権を遺言によりBに遺贈することも検討することが必要です。
東京弁護士会弁護士業務改革委員会
遺言相続法律支援プロジェクトチーム
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