半導体不足が起きた「3つの理由」
半導体チップは現代社会の生命線ですが、そもそもパンデミックの前から需要が供給を上回っていました。半導体チップはアメリカで発明されたものですが、現在、チップを作っているアメリカのメーカーの数は著しく減少しています。
そして、長年にわたって一貫して拡大し続けてきた需要に対して、半導体チップを製造できる工場を建設するには、100億ドルもの費用がかかり、ほとんどの企業にとっては法外な価格となっているのです。
2.対中制裁
3.増産投資の不足
上記3つの理由について詳しく解説しましょう。
1.新たな半導体需要の発生
COVID-19パンデミックの影響で世界が閉鎖され、多くの工場も閉鎖されたため、チップ製造に必要な物資が数ヵ月間入手できませんでした。また、家電製品の需要が増えたことで、サプライチェーンにも変化が起こりました。新たな需要に対応するために十分な量のチップを作るのに苦労し、注文が山積みになっていき、受注残はどんどん増えています。
また、フォードのような自動車メーカーは、自動車を生産するために必要なチップの量を予測し、チップメーカーのいずれかに事前に発注しなければなりませんが、現在は民生用半導体チップの製造がメインとなっているなか、手に入れるには時間を要します。
一般家庭も大きく暮らしが変わり、学校ではノートパソコンやタブレットを使ったバーチャル学習が導入され、家にいる時間が増えたことでテレビやゲーム機などのホームエンターテインメントへの支出も増えました。これらに加えて、5Gの普及やクラウドコンピューティングの継続的な成長により、自動車メーカーが手放した分の生産枠はあっという間に消費されていきました。
現在、半導体チップに対する需要は非常に大きく、半導体のメーカーは現時点では需要を満たすだけのチップを作ることができないため、消費者は近いうちに少なくない半導体チップを使った商品が高い価格で供給されていることを目にすることになるでしょう。
2.対中制裁
問題は半導体チップの製造現場だけではありません。COVID-19がアジアを通過する際には、港が閉鎖され、時には数ヵ月におよぶこともありました。世界の電子機器の約90%が中国の塩田港を経由していますが、塩田港が閉鎖され、数百隻のコンテナ船が停泊していました。
港が再開されると、出荷を待つ商品が積み重なり、やはりスムーズな供給とはなりませんでした。輸送のサプライチェーンの多くの部分では、この蓄積された情報や、発生している労働力の不足を処理する能力がなく、サプライチェーンはさらなる危機に陥っています。
3.増産投資の不足
パンデミックの影響で、デバイスの需要が爆発的に増加し、メーカーが提供できる範囲を超えて半導体の需要も急増しました。また、自動車業界の誤った判断も不足に拍車をかけました。
COVIDがスタートした当時、多くの企業が経済の長期的な打撃を想定して半導体チップの発注をキャンセルしました。特に自動車メーカーが注文をキャンセルしたため、半導体チップメーカーはパンデミックによる爆発的な需要に対応するため、自動車用ではなく民生用の半導体チップを作るように工場を変更しました。そのため、今度は自動車用の半導体チップが不足してしまったのです。
今回のパンデミックでは、いくつかのチップ製造工場が稼働していましたが、不運な天候に見舞われ、製造工程がさらに遅れてしまいました。
世界中の自動車に搭載されているチップの約3分の1を生産している日本のルネサス社の工場は火災で大きな被害を受け、アメリカのテキサス州では冬の嵐の影響で、唯一のチップ工場が生産停止に追い込まれました。また、チップの生産には大量の水が必要ですが、台湾の深刻な干ばつも生産に影響を与えています。
地政学的な問題は、今回の半導体チップ不足の主な原因ではありませんが、台湾と中国の緊張した関係が懸念されています。台湾は世界有数のチップ生産国であり、中国と台湾の間で戦争が起こる可能性があると、アメリカの半導体チップ産業へのアクセスが潜在的に危うくなり、多くの産業に壊滅的な影響を与える可能性があります。
アメリカのチップメーカーであるインテルは、現在、半導体チップの生産規模を拡大する計画を発表しており、台湾のセミコンダクター・マニュファクチャリング社やサムスンは、建設を予定しているアメリカの工場の立地を検討しています。これらの計画は有望ですが、工場が生産レベルを向上させるまでには何年もかかることが予想されます。
まとめ
2021年の第1四半期から始まった世界的な半導体不足により、世界中の組み立てラインが停止するなどの影響が出ました。半導体チップのリードタイムが長いため、スマートフォンや家電製品から運転支援システムに至るまで、あらゆる製品の生産が滞ってしまったのです。
現在の半導体チップ不足は経済的な混乱を引き起こしていますが、忘れてはならないのは、高い需要は有望で、低い生産能力は一時的なものだということです。半導体企業は拡大を続けており、政府も世界で最も急速に成長している産業の1つに投資する機会を捉えています。
メタバースやNFTなどWEB3.0時代とも関わりのある「半導体」には、今後も注目が集まることでしょう。 恐怖を煽るような報道や短期的な生産量の小ささなどの裏には、長期的な経済の拡大の可能性が示されていることがわかるようになるはずです。
株式会社識学
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