デジタルマーケティングは顧客を推奨者にすること
カスタマー・ジャーニー
『マーケティング4.0』の中核をなすコンセプトが「カスタマー・ジャーニー(Customer Journey)」です。これは、
「製品サービスを知った顧客が購入・推奨に至るまでのプロセス」
を旅に喩えたものです。
「カスタマー・ジャーニー」というコンセプトは『マーケティング4.0』以前にもありましたが、『マーケティング4.0』ではそのフレームワークを「5A」として、以下のように定義し直しています。
デジタル時代のエンゲージメント活動
顧客を最初の「認知」から4番目の「行動」にまで進ませることができたら、マーケターはいわゆるセールス・サイクルを完了したことになります。
デジタル時代で重要なことは、顧客を最後の「推奨」にまで進ませ、推奨者にすることで、それが伝統的マーケティングとデジタルマーケティングを区別する要素です。なぜなら、デジタルエコノミーでは、モバイル接続とソーシャル・メディア・コニュニティーの驚異的な普及によって、「推奨」の力が増幅されているからです。
以前は、顧客個人がブランドに対する自分の態度を決めていました。しかし、現在は、顧客は自身をとりまくコミュニティから大きな影響を受け、それが顧客の決定に反映されています。
顧客はソーシャルネットワークなどによって互いに積極的につながり、質問し合い、推奨し合う関係をもっています。もし、より多くの情報が必要なら、顧客は自分より豊かな知識や経験をもつほかの顧客とつながろうとします。このつながりがもたらすある種のバイアスが、ブランド本来のアピール力を強化したり、希薄化したりすることもあります。
マーケターはこうした現在の状況を理解し、顧客を推奨者にするために、顧客エンゲージメント(関係性)活動をすることが重要です。
“Think different.”のどこがデジタルマーケティングなのか?
では、ジョブズによる“Think different.”キャンペーンおよびその後の快進撃の、どこがデジタルマーケティングなのでしょうか。
顧客を推奨者にするには?
マーケターの役割は、カスタマージャーニーの道中において、終始、顧客の道案内をすることです。では、顧客を、旅の最終段階、「推奨」にまでいざなうものはなんでしょうか。このことに関して、『マーケティング4.0』には、非常に興味深いエピソードが紹介されています。
アメリカの起業家、ジア・ジアンは自分のスタートアップへの出資を断られ続けました。そこで、彼はそうした拒絶に対する「耐性」をつけようと、バカげた要求を100個、書き連ねたリストを作り、わざと断られる経験を重ねることにしました。
最初の2日間は彼の意図したとおり、断られ続けました。そして、3日目、彼はクリスピー・クリームドーナツに赴き、「オリンピックの5輪マークの形をしたドーナツを1箱作るように頼みました。
すると、予想に反して、クリスピー・クリームの店員、ジャッキー・ブラウンは、要求されたとおりのものを作ってジアンの目の前に差し出したのです。
拒絶され嘲笑されると予想されていたジアンは、「ワオ!」と、一言。
現在、この様子を伝える動画は、Youtube上で、594万回以上、再生され※3、このことを契機にジアンはTEDの登壇を果たしています。
※3 Rejection Therapy Day 3 – Ask for Olympic Symbol Doughnuts. Jackie at Krispy Kreme Delivers!
企業と顧客とのエンゲージメント、それが「ワオ!」である
成功する企業やブランドは、この「ワオ!」の瞬間を産み出すとコトラーは言います。
「ワオ!」とは、顧客が言葉にできないほどの喜びを経験しているときに発せられる表現であり、それは予期せぬ驚き、期待以上のものを得たときに発せられる表現です。「ワオ!」には感染力があります。クリスピー・クリームドーナツは、その優れたサービスによって、594万回以上の無料の宣伝を獲得しました。
繰り返しになりますが、企業やブランドはカスタマー・ジャーニー全体にわたって、顧客との関係性を強化する必要があります。
顧客の視点から考えると、そこには喜び、経験、エンゲージメントの3つのレベルがあります。このうち最もレベルの高い企業は、顧客と個人的なエンゲージメントを築きます。
それは、顧客に自己実現の手段を提供することです。つまり、人生を変えるようなパーソナリゼーション(個人向けにカスタマイズすること)をデザインするのです。
成功する企業やブランドは、「ワオ!」を意図的に作り出し、顧客を「推奨」へと建設的に導き、創造的なエンゲージメントを実現すると、コトラーは言います。
ジョブズとアップルが仕掛けた「ワオ!」とは?
デザイン原理―ジョブズは製品はもちろんのこと、パッケージのデザインにもとことん拘りました。iPodやiPhone、iPadは、製品としての機能が優れているだけでなく、製品パッケージから店舗に至るまでデザインが統一されています。パッケージを開けたときの「ワオ!」、店舗を訪れたときの「ワオ!」です。
ジョブズがアップルに復帰してすぐに取りかかったのは製造ラインの見直しでした。
夥しい種類の製品を、「友だちにすすめるとしたらどれにすべきなんだい?」という質問でふるいにかけ、その答えによって70%カットしました。
ここにみられるのは、「推奨」に足るものかどうかという観点です。
ここで、冒頭のスピーチを振り返ってみましょう。ジョブズは言いました。
「アップルは型にはまらない考え方をする人のもの、コンピュータを使って世界を変えたいと思う人のものなんだ」
そして、アップルの製品を選んだユーザーが、ただその選択だけで、自分は特別な存在なのだと思い、主張できる――そういうブランドをジョブズは創りました。アップル製品をもつことは、ハイブランドの車や時計、バッグを所有することで得られる満足感と同等の、特別な体験価値を顧客に与えます。
コロナの巣ごもりで売れ行きのよかったiPadは、最近もタブレット端末の販売台数で70%のシェアを誇っています(図表2)※4。
iPadは、コロナ禍で俄かに普及したテレワークによっても需要が伸び、首都圏では入手困難だった時期もあるとそうです。
筆者も最近、テレワークに関連してノートアプリを使う必要があり、5台目のiPadとApple Pencilを購入しましたが、仕事の効率が著しくアップし、予想以上に時間を節約できるようになりました。まさに、「ワオ!」の体験です。
こうして、ジョブズはさまざまなレベルで「ワオ!」を産む仕掛けを創造しました。彼は間違いなく、デジタルマーケティングの本質を見抜き、それを実践していたのです。
株式会社識学
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