「全民デジタル化」を目指す中国の現在地
「事前登録のQRコードがなければ入場できません」――。
4月に訪れたデジタル経済の大型展示会。会場入口の自動改札ゲートで係員からこう言い放たれた。
中国のイベント会場や観光地でよく見られる、スマホアプリ経由のチケット購入や事前登録システム。しかし、時として外国人には対応していない。
杓子定規な係員は「ダメなものはダメ」とそっけない。このような理不尽な対応に慣れてはいるが、このまま引き下がるわけにもいかず、ダメ元で改札横にあった顔認証カメラに顔をかざしてみた。
すると、数秒後に見知らぬおじさんの顔(たしか「黄某」という名前が表示されていた)とバッチリ照合され、なんとゲートがオープン。係員は笑顔で「行って良し!」。いや、私とは似ても似つかぬ顔だったのだが......。
社会のデジタル化が進む中国。2022年のデジタル経済規模は前年比10.3%増の50兆2000億元で、対GDP比率は41.5%に高まった。工業インターネットやスマート製造などに加え、コネクテッドカー、プラットフォーム経済などが生活シーンに浸透中だ。
市民がデジタル化を実感しやすいのが普段使いのネットやスマホだろう。中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、中国のネットユーザーは22年末時点で10億6700万人を数え、普及率(全人口に占める比率)は75.6%。携帯電話ユーザー数は総人口(14億1175万人)を上回る16億8300万件で、“全民デジタル化”の様相だ。
スマホ経済圏も想像以上に広がっており、「中国ではスマホがないと何もできない」との例えは決して大げさではない。
レストランで注文しようと従業員に声をかけると、「掃碼点餐!」(注文はQRコードでお願いします!)と返されることが多くなった。テーブルに貼られたQRコードを自分のスマホで読み取り、メニューの閲覧・注文・支払いなどをセルフで済ませるシステムだ。
日本でのタブレット注文などと異なり、中国ではスマホ画面上でのスワイプ&タップが一般的。ただ、料理名を発音する機会が激減し、中国語でのオーダー力が衰えたのが玉に瑕。スタッフとの掛け合いも少なくなり、いささか物足りない気もする。