団地にエレベーターを!…住民、心の叫び
足が重く、息づかいが荒くなるのは88段の階段を上った後の「後遺症」だ。自宅があるのは6階建て団地の最上階。階段上りは我慢できなくもないが、運動嫌いの筆者は時々「早くエレベーターを付けて」と心の中で祈っている。毎日の「後遺症」から逃れるために......。
神様に私の祈りが届いたのだろうか、今年2月、団地でエレベーター新設についてのアンケートが行われた。筆者はもちろん「同意」の一択だ。
中国には中国ならではのエレベーター事情がある。「住宅設計規範」によると、7階建て以上の建物にはエレベーター設置が義務化されている。逆に言えば、6階以下の建物はエレベーター不要。設置義務を避けるためか、従来型団地のほとんどは6階建て以下だ。上海の中心部でもこのような「低層アパート」がよく見られる。だが、時代は高齢化社会に突入。お年寄りの上り下り(昇り降り)問題も浮上してきた。
上海市政府は数年前から古い団地でのエレベーター新設プロジェクトを推進してきた。いわば「外付け&後付け」の代物だ。ただ、この取り組みは順調とは言えない。
2018年から22年までに新設されたエレベーターは約4,300台に上ったが、6階建て以下の建物は市全域で約20万棟あるため、焼け石に水にすぎない。
エレベーターの新設時には住民の意見聴取を行い、3分の2以上の同意が必要となる。ただ、メリットが感じられない低層階の住民が拒否する場合が多い。
上海の古い団地では、建物間の距離が狭く、低層階の部屋には採光や換気の問題が元々ある。エレベーターを設置するとその問題がさらに悪化するほか、騒音問題も発生してしまう。
さらに深刻なのは、上層階より出入りが便利というメリットがなくなり、物件価値が抑えられてしまうこと。
同じく低層アパートに住む義理の両親は、エレベーター新設の意見聴取の際、躊躇せず「不同意」にした。なぜなら1階に住んでいるから。必要性すら感じないということだろう。