露・宇の情報戦…影に「米国」の存在
井上 ロシアの情報戦に対し、ウクライナは優勢を保っています。その背景には、米国による強力な支援があったと言われています。ここからは、米国による情報戦について深掘りしたいと思います。
ジョー・バイデン政権が実施した「開示による抑止」
渡部 まずバイデン政権が実際に行った情報戦「開示による抑止(Deterrence by Disclosure)」を紹介します。その後で、なぜそのような情報戦にならざるを得なかったのか、米国の情報戦の本質に関連したことを説明したいと思います。
簡単に言いますと、偽情報やプロパガンダを中心とした情報戦大国であるロシア・中国と民主主義国の米国は違うということです。
米国には情報戦に関する政府の公式な定義がありませんし、平時において偽情報に基づく情報戦を行うのはタブーとなっています。これは偽情報やプロパガンダに厳しい民主主義国である米国の宿命だろうと思います。
佐々木 米国において、情報戦への対応は喫緊の課題になっていますが、ロシアのウクライナ侵略に際して実施した「開示による抑止」戦略は参考になります。渡部さん、その詳細を説明願います。
渡部 バイデン政権の政府高官らが、二月に入ってから積極的に会見やインタビューに応じ、ロシア軍の兵力数、部隊の配置状況、ウクライナを攻撃するか否か、攻撃するとすればその時期、攻撃の要領(攻撃目標、攻撃方向、兵力)といった機密情報を次々と開示しました。
例えば、米国務省のプライス報道官は2月16日に「ロシア当局者がウクライナ侵略の口実となるような偽情報を報道機関に広めている」と警告しました。
また、2月23日には「ロシア軍の80%が臨戦態勢にはいっている。プーチン大統領はいつでもウクライナを攻撃できる状態にある」「ロシア軍はウクライナ国境において、北・南・東から攻撃する態勢を完了している」、24日には「大規模侵略が48時間以内に迫っている」「事実上、いつでも攻撃可能である」などと驚くような情報を開示しました。
バイデン大統領みずからも「侵略は数日中にもある」「プーチン大統領は侵略を決断したと確信している」などと発言しました。
このように米国政府は機密情報を敢えて積極的に開示する異例の戦略を採用したのです。
NHKのWEB特集(※1)によると、この戦略は「開示による抑止」と呼ばれるもので、相手側の機先を制し、行動を抑止するのが狙いです。
※1WEB特集「ウクライナ軍事侵略熾烈な情報戦攻撃開始9時間前に何が」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220225/k10013500661000.html
ロシアや中国は情報戦大国です。しかし、プーチンのロシアは、今回のウクライナ侵略前後の情報戦において、バイデンの米国に敗北しました。これが私の結論です。