(※写真はイメージです/PIXTA)

昨年2月、ウクライナ侵攻が開始された後すぐに、西側各国はロシアに対し「経済制裁」を加えました。輸出入禁止措置は2023年5月現在、12月31日までとなっています。専門家らがまとめた内部資料をもとに、経済制裁がロシアに与える具体的な「経済的打撃」についてみていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

66億ドル税収減の可能性も…項目別にみる「経済打撃」

以下、項目別の経済制裁による影響を紹介します。

 

■輸出と石油・ガス

今後1〜2年のあいだに、石油・ガスから金属、化学、木材製品に至るまで、輸出志向の様々な分野で生産量が減少する。その後、多少の回復は見込めるものの、これらの部門は経済の牽引役(けんいんやく)ではなくなる。

 

ロシア産天然ガスの、主要輸出先であるヨーロッパへの供給が完全に遮断(しゃだん)されれば、年間4000億ルーブル(66億ドル)もの税収が失われる可能性がある。失われた売り上げを新たな輸出市場で完全に補うことは、中期的にも不可能だろう。

 

結果的に生産量減少を余儀なくされることで、国内のガス供給拡大という政府目標の達成も危うくなる。液化天然ガス(LNG)プラントに必要な技術の不足は「重大」で、新たなプラント建設の取り組みを妨げる恐れがある。

 

■重要な輸入品

輸入について、主な短期的リスクは原材料・部品の不足に伴う生産停止だ。より長期的には、輸入した装置が修理不能に陥り、成長が恒久的に制限される。一部の極めて重要な輸入品について代替のサプライヤーがまったくいない。

 

海外からの供給代替に向けた取り組みを政府が強調してきた農業分野でも、依存する主要原料の供給縮小に伴い、国民が食料消費抑制を迫られることもあり得る。

 

西側の技術へのアクセスが制限されているため、ロシアは中国や東南アジアの先進的ではない代替品に頼らざるを得ず、現在の基準から1〜2世代遅れてしまうかもしれない。

 

内部資料では、制裁による打撃の範囲を分野別に詳しく説明しています。

 

農業:鶏肉生産の99%、ホルスタイン種の乳牛生産の30%を輸入に依存する。主食であるテンサイやジャガイモの種子、魚の飼料やアミノ酸もほとんどが輸入されている。

 

航空:旅客輸送量の95%が外国製飛行機で占められており、輸入スペアパーツが入手できないため、運行停止に伴い航空機産業が縮小する可能性がある。

 

機械製造:ロシア製の工作機械は全体の30%にすぎず、国内産業では需要増をカバーする能力がない。

 

医薬品:国内生産の約80%を輸入原料に依存している。

 

輸送:EUの規制により、陸上輸送のコストが3倍に上昇する。通信とIT:SIMカードの規制により、2025年までにSIMカードが不足し、2022年には通信分野が世界のリーダーから5年遅れる可能性がある。

 

以上のように、西側諸国のロシアへの経済制裁は、ロシア経済に大きな影響を与えます。軍事の観点からも、西側のハイテク技術や部品(とくに半導体)が入手できないために最先端の兵器を開発し、製造することは難しくなると思います。

 

例えば、航空機、艦艇、ミサイル、戦車など各軍種の最重要な兵器を開発・製造できなくなる可能性は高いでしょう。つまり、ロシアは経済的にも軍事的にも取るに足りない国になる可能性があるということです。

 

次ページ一方、佐々木氏が指摘する経済制裁の“抜け道”

※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

プーチンの超限戦 その全貌と失敗の本質

渡部 悦和 井上 武 佐々木 孝博

ワニ・プラス

2022年6月、ワニブックス【PLUS】新書として発刊され好評を博した『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』の続編が、読み応えある単行本として登場。3人の自衛隊元幹部が、プーチンとロシアが行っている戦争を「超限戦」と捉え…

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