昨年2月、ウクライナ侵攻が開始された後すぐに、西側各国はロシアに対し「経済制裁」を加えました。輸出入禁止措置は2023年5月現在、12月31日までとなっています。専門家らがまとめた内部資料をもとに、経済制裁がロシアに与える具体的な「経済的打撃」についてみていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。
懸念される“後ろ盾”による経済制裁の「抜け道」
佐々木 私も基本的にはこの分析に賛同します。ただし気になっている点もいくつかあります。
以前にメディアに出演した際に、経済の専門家の方々ともご一緒することがあったのですが、その際に話題になっていたのが制裁の抜け道ということでした。
ロシアの原油、天然ガス等が第三国を通じて他国に流れる可能性があるとのことでした。第三国を通じ、それが石油精製品に変化した場合などは、ロシアが元々の原産国であることがわからなくなることも多々あるそうです。
また、中国が基軸通貨のドルを介さずに人民元・ロシアルーブルの直接取引を行い、SWIFT(国際銀行間通信協会)排除で苦しむロシアのエネルギー輸出を支えていることも明らかになってきました。今後、このような抜け穴をどのように無力化していくかが焦点になってくると思います。
井上 ロシア経済の広範囲な分野が極めて大きな影響を受けて、苦しむことになり、経済を回復するには、西側の制裁解除と長い期間が必要となりますね。兵器の開発において、制裁により半導体が調達できないことは、決定的な影響となります。
ストックホルム国際研究所の発表によれば、2017年の武器売上高の総額に占めるロシア企業の割合は9.5%で、米国の57%に次ぐ世界第2位ですが、ロシア兵器は信頼性を失い、顧客も失うことになります。今回の戦争により、喪失したものがいかに大きいかは、今後身をもって気づくことになります。
渡部 悦和
元陸上自衛隊 陸将
井上 武
元陸上自衛隊 陸将
佐々木 孝博
元海上自衛隊 海将補
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前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
1978(昭和53)年、東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、函館駐屯地司令、東京地方協力本部長、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011(平成23)年に東部方面総監。2013年退職。著書に『米中戦争―そのとき日本は』(講談社現代新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)、共著に『台湾有事と日本の安全保障』『現代戦争論―超「超限戦」』(ともにワニブックス【PLUS】新書)がある。
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連載元自衛隊幹部が解説…ロシア・ウクライナ戦争の“本質”
元陸将
1954年徳島県生まれ。元陸将。1978年、防衛大学校卒(22期)。陸上自衛隊入隊後、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、在ドイツ防衛駐在官、陸上自衛隊富士学校長等を経て、2013年退職。陸上自衛隊の最新兵器について『月刊JADI』(日本防衛装備工業会)等の雑誌に数多く寄稿。
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元海将補
1962年東京都生まれ。元海将補。1986年防衛大学校卒(30期)、博士(学術)。海上自衛隊入隊後、オーストラリア海軍大学留学、在ロシア防衛駐在官等を経て、下関基地隊司令。2018年退職。著書に『近未来戦の核心 サイバー戦』(育鵬社)など。
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