遺言書の種類とそれぞれの特徴
遺言書は、本人が亡くなってから効力を生じるものです。そのため、作成のルールが法律で厳格に定められています。法律に規定されているルールを無視して作成した遺言書は、たとえ遺言のようなことが書いてあったとしても、法律上の遺言書とはなりません。
法律に定められている遺言書の作成方式には、平常時に使用する「普通方式」のほか、死亡の危険などが迫っているなど特定の場面で使用する「特別方式」が存在します。このうち、普通方式の遺言書は、次の3つです。
・公正証書遺言
・秘密証書遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、全文を自書(手書き)して作成する遺言書です。もっとも手軽な遺言書である一方で、厳格な要件を満たせず無効となるリスクがある方式であるといえます。 自筆証書遺言の要件や作り方については、後ほどくわしく解説します。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人の関与のもとで作成する遺言書です。 遺言者が口授した内容をもとに公証人が文案を作成してくれるため、自分で文章を組み立てたり長い文章を自書したりする必要がありません。 公証役場の手数料が必要となる一方で、確実性が高く無効になる可能性が低い方式であるといえるでしょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言証書を封筒に入れて封をした状態で、公証役場に差し入れる遺言方式です。遺言の内容を誰にも知られずに作成できる点がメリットである一方で、公証人は内容に関与せず、無効になる可能性もあります。そのため、利用すべき場面は非常に限定的であり、実際にはほとんど利用されていません。
「自筆証書遺言」の書き方のルール
自筆証書遺言を自分で作成する際には、法律上の要件を満たすようよく注意しなければなりません。1つでも要件から外れてしまえば、せっかく作成した遺言書が無効となる可能性があります。 自筆証書遺言の作成時、遵守すべきルールは、次のとおりです(民法967条)。
本文は全文自筆で書く
自筆証書遺言は、全文を遺言者が自書しなければなりません。 たとえば、本文をパソコンで作成したり、他者が代筆したりすれば無効となります。これに例外はなく、たとえば手が不自由であっても、また代筆する人が弁護士などであったとしても自書以外は認められないため、注意が必要です。
事情があって自書が難しい場合には、無理に自筆証書遺言で作成せず、自書の必要がない公正証書遺言での作成を検討するとよいでしょう。ただし、遺言書に別紙として財産目録を添付する場合、この財産目録のみは自書でなくても構いません。遺言書に添付する財産目録とは、次のようなものです※。
財産目録
第1 不動産
土地
所在 OO県OO市OO区OO町O丁目
地番 O番O
地目 宅地
地積 OO平方メートル
建物
所在 OO県OO市OO区OO町O丁目O番地O
家屋番号 O番O
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階OO平方メートル 2階OO平方メートル
第2 預貯金
OO銀行OO支店 普通預金 口座番号OOO
法律太郎㊞
財産目録を添付する場合には、財産目録のすべてのページ(両面印刷であれば、両面とも)に、遺言者の署名と捺印をしなければなりません。
なお、財産目録を添付する場合の遺言書本文の記載例は、次のとおりです。こちらは、原則どおりすべて自書しなければなりません。
遺言書
遺言者 法律太郎は、次のとおり遺言する。
1 別紙目録第1記載の不動産を、長男法律一郎(昭和O年O月O日生)に相続させる。
2 別紙目録第2記載の預貯金を、二男法律次郎(昭和O年O月O日生)に相続させる。
令和5年1月1日
東京都OO区OO1丁目1番1号
法律太郎 ㊞
※ 自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例
日付を記載する
自筆証書遺言では、日付の自書が要件の1つとされています。「令和5年1月1日」のように、年月日まで特定できるように記載しましょう。「令和5年1月吉日」などの表記では年月日までの特定ができないため、無効です。
なお、日付が正確に特定できれば構わないため、たとえば「65歳の誕生日」などの記載は有効とされています。ただし、基本から外れた記載をすれば疑義が生じるリスクがありますので、原則どおり「令和5年1月1日」のように記載をしたほうが、無用な問題が生じにくいでしょう。
氏名を自書する
自筆証書遺言では、氏名の自書が必要です。
押印する
自筆証書遺言には、遺言者が押印をする必要があります。 捺印する印鑑の種類までは指定がありませんので、認印だからといって無効となるわけではありません。しかし、遺言書は非常に重要な文書であるため、可能であれば実印の捺印が望ましいでしょう。