ロシアが仕掛けた情報戦に対し、ウクライナは優勢を保っていると、元陸将の渡部悦和氏と井上武氏、元海将補の佐々木孝博氏はいいます。そのワケとは、詳しくみていきましょう。※本連載は、渡部悦和氏、井上武氏、佐々木孝博氏の共著『プーチンの「超限戦」その全貌と失敗の本質』(ワニ・プラス)より一部を抜粋・再編集したものです。
「米国の情報戦」に関する専門家の見解
佐々木 情報戦大国である中国やロシアでは、公式文書で情報戦が定義されています。しかし、米国政府は、公式文書で情報戦を定義していません。なぜ定義しないのでしょうか。
渡部 米国は中国やロシアほど露骨に虚偽を多用する情報戦を行う国ではありません。一方、中露は情報戦の戦略を持ち、軍事に限定しないで政府全体または社会全体の情報戦のアプローチを採用しています。
米国では、情報戦は政治戦の一形態であり、国家が戦略目標を達成し、外交政策目標を推進する手段です。情報戦は、武力紛争には至らないように行われ、情報環境を防護し利用するためになされる軍事および政府の一連の戦い(warfare)です。
米国政府の官僚機構では、情報戦を担当する部署をどこにするかについて明確に決定されていません。冷戦時代における米政府の情報戦の主要担当機関は国務省と米国広報文化交流局(USIA:US Information Agency)でしたが、現在USIAは存在していません。2001年の9・11同時多発テロ以降、軍事作戦としての情報作戦(IO:Information Operation)に関するドクトリンと能力は軍隊が保有しています。
そのため、その情報戦の主役は国防省であるという考え方はありますが、民主主義国家の軍がプロパガンダの実施に関与すべきではないという議論もあり、現在に至っています。
渡部 悦和
元陸上自衛隊 陸将
井上 武
元陸上自衛隊 陸将
佐々木 孝博
元海上自衛隊 海将補
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前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
1978(昭和53)年、東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、函館駐屯地司令、東京地方協力本部長、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011(平成23)年に東部方面総監。2013年退職。著書に『米中戦争―そのとき日本は』(講談社現代新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)、共著に『台湾有事と日本の安全保障』『現代戦争論―超「超限戦」』(ともにワニブックス【PLUS】新書)がある。
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連載元自衛隊幹部が解説…ロシア・ウクライナ戦争の“本質”
元陸将
1954年徳島県生まれ。元陸将。1978年、防衛大学校卒(22期)。陸上自衛隊入隊後、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、在ドイツ防衛駐在官、陸上自衛隊富士学校長等を経て、2013年退職。陸上自衛隊の最新兵器について『月刊JADI』(日本防衛装備工業会)等の雑誌に数多く寄稿。
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元海将補
1962年東京都生まれ。元海将補。1986年防衛大学校卒(30期)、博士(学術)。海上自衛隊入隊後、オーストラリア海軍大学留学、在ロシア防衛駐在官等を経て、下関基地隊司令。2018年退職。著書に『近未来戦の核心 サイバー戦』(育鵬社)など。
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