(※写真はイメージです/PIXTA)

手軽に作成可能な一方、「法定の要件を満たしていない」「関係者による遺言書の偽造の可能性」など、問題視されていた「自筆証書遺言書」。これらのリスクを減らす目的で制定されたのが「自筆証書遺言書の保管制度」です。一体どのような制度なのでしょうか? 相続に詳しいAuthense法律事務所の堅田勇気弁護士がわかりやすく解説します。

「自筆証書遺言書の保管制度」とは?

自筆証書遺言の保管制度とは、どのような制度なのでしょうか? はじめに、制度の概要や背景、制度開始時期について解説します。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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制度の概要と背景

自筆証書遺言の保管制度とは、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえる制度です。遺言書には主に次の3つの形式があり、自筆証書遺言と公正証書遺言がよく使用されています。

 

・自筆証書遺言

・公正証書遺言

・秘密証書遺言

 

このうち、自筆証書遺言は手軽に作成できるものの、法定の要件を満たしていなかったり、遺言書の内容に不服のある関係者が遺言書を偽造したり隠匿したりするリスクなどがあり、問題視されていました。そこで、遺言書を作成する人の裾野を広げる目的で、自筆証書遺言の問題点を改善すべく法務局での保管制度が創設されています。

 

自筆証書遺言書の保管制度はいつから始まった?

法務局での自筆証書遺言書の保管制度は、令和2年(2020年)7月10日から施行されています。なお、施行日以前に作成された遺言書であっても、保管要件を満たしたものであれば保管申請が可能です。

手軽に作成できるがデメリットも…従来の自筆証書遺言

自筆証書遺言は、費用がかからず手軽に作成できる点がメリットです。しかし、公証人の関与のもとで作成する公正証書遺言と比較した場合、従来の自筆証書遺言書には次のデメリットがありました。ここでは、法務局での保管制度を利用しなかった場合における、自筆証書遺言書の主なデメリットについて解説していきましょう。

 

無効になるリスク

自筆証書遺言書は、他者の関与なく作成することが少なくありません。そのため、要件不備などにより無効になるリスクがあります。一方、公正証書遺言は公証人が関与して作成するため、要件不備で無効となるリスクはほとんどありません。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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偽造・隠匿のリスク

自筆証書遺言書は、作成後、自宅などで保管することが一般的でした。そのため、偽造や隠匿のリスクが少なからずあります。一方、公正証書遺言は原本が公証役場で保管されるため、偽造や隠匿のリスクはありません。

 

トラブルの原因となるリスク

自筆証書遺言書は他者の関与なく作成されることが多いですが、遺言者の死後、トラブルの原因となることが少なくありません。トラブルの内容としては、本当に本人が書いたものであるのかと疑義が生じるケースや、内容があいまいで相続の手続きができないケースなど、さまざまなものがあります。

 

一方、公正証書遺言は公証人が文案を作成するためあいまいな内容となるリスクは低く、また厳格な本人確認がされるため、本人以外が作成することはできません。

 

見つけてもらえないリスク

自筆証書遺言書は自宅などで保管することが多く、しっかりとしまい込んだ結果、相続が起きても見つけてもらえないリスクがあります。亡くなって何年も経ってから遺言書が発見された場合などには、家族を混乱させてしまうでしょう。一方で、公正証書遺言は遺言者の死亡後に相続人などが公証役場へ出向くことで、作成の有無を調べることが可能です。

 

相続開始後に検認が必要

自筆証書遺言書は、相続が起きたあとで検認を受けなければなりません。検認とは、以後の遺言書の偽造や変造を防ぐため、家庭裁判所で行う手続きです。一方、公正証書遺言は検認が必要ありません。

制度を利用するメリット

(※写真はイメージです/PIXTA)
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自筆証書遺言書の保管制度がスタートしていますが、保管制度を使うかどうかは自由です。作成した自筆証書遺言書を法務局に預け入れず、従来どおり自宅などで保管しても構いません。しかし、保管制度を利用することで、先ほど紹介したデメリットを大きく減じることが可能となります。具体的には次のとおりです。

 

形式不備による無効を予防

保管制度を利用する際には、保管先となる法務局で形式面のチェックがなされます。たとえば、「自書ではなくワープロ打ちである」や「日付が吉日表記である」など基本的な要件に不備があれば、保管申請時に指摘されることでしょう。そのため、無効である遺言書を遺してしまうリスクは低減されます。

 

偽造・隠匿の予防

保管制度を利用した場合、自筆証書遺言書の原本が法務局で保管されます。そのため、遺言書が偽造されたり隠匿されたりするリスクから解放されます。

 

本人が保管申請をした証拠が残る

自筆証書遺言書の保管申請は、必ず本人が法務局へ出向かなければなりません。そのため、「遺言書の作成者が本当に本人である」ことの担保まではできないまでも、少なくとも「本人が保管申請をした」という事実は担保されます。

 

見つけてもらえないリスクの軽減

遺言書の保管制度を利用した場合には、遺言書を見つけてもらえないリスクを減らすことが可能となります。遺言者の死後に相続人などが法務局で所定の手続きをすることで、遺言書の有無を調べることができるためです。

 

相続開始後の検認が不要

法務局での保管制度を利用した自筆証書遺言書は、例外的に検認が不要とされます。法務局で遺言書の原本が保管されている以上、偽造や変造をすることはできないためです。

 

次ページ【遺言者側の手続き】自筆証書遺言書保管制度を利用する流れ

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

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