【相続発生時】相続人側の手続き
遺言書の保管制度を利用した後、遺言者が亡くなった場合における遺族側の手続きは、次のとおりです※3。なお、これらの手続きを行うことができるのは遺言者が亡くなってからであり、遺言者の生前には行うことができません。
※3 法務省:相続人等の手続
①遺言書保管事実証明書の交付請求をする
亡くなった人が法務局に遺言書を預け入れていたかどうかがわからない場合には、まず最寄りの法務局で「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行います。この手続きができるのは、遺言者の相続人や受遺者、遺言執行者などのみです。
これにより、その亡くなった人の遺言書が法務局に保管されているかどうかがわかります。手数料は、証明書1通あたり800円です。
②遺言書情報証明書の交付請求をする
亡くなった人が遺言書の保管制度を利用していることがわかったら、次に「遺言書情報証明書」の交付請求を行います。この証明書には遺言書の画像情報が全て掲載されており、遺言書の内容を確認することができます。手数料は、証明書1通あたり1,400円です。
③すべての相続人に遺言書が保管されていることが通知される
相続人や受遺者のうち誰か1人でも遺言書情報証明書の交付を受けると、法務局からその他の相続人などに対して、遺言書を保管している旨の通知がなされます。これを受けて遺言書情報証明書の交付請求をすることで、他の相続人も遺言書内容を知ることとなります。
④遺言書を執行する
遺言書情報証明書の交付を受けたら、これを使って遺言の執行を行います。執行すべき事項は遺言書の内容によって異なるものの、たとえば不動産の名義変更や、預貯金の解約換金などです。自分で手続きをすることが難しい場合などには、手続きの進め方などについて専門家へ相談するとよいでしょう。
制度利用時の2つの注意点
保管制度を利用する際には、次の2点に注意しましょう。
1.法務局は遺言書の作成支援はしない
法務局への保管申請時に、たとえば「押印がされているか」、「日付が書かれているか」などの形式面のチェックはしてもらえます。しかし、法務局では、遺言の内容に関するアドバイスを受けることはできません。
いくら形式面が整っていても、将来に問題を残してしまう遺言書は数多く存在します。たとえば、遺留分(子や配偶者など一部の相続人に保証されている、相続での最低限の取り分)を侵害してしまい、相続開始後にトラブルとなるものなどです。
法務局の役割はあくまでも遺言書を保管してくれるのみであると理解したうえで、遺言書の書き方が知りたい場合や遺言書の内容を相談したい場合などには、弁護士などの専門家へ相談しましょう。
2.代理や出張での保管申請は不可
自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうための申請は、遺言者本人が保管申請先の法務局まで出向くことが必要です。これに例外はなく、たとえば弁護士などの専門家や配偶者などのご家族であっても、代理で申請することはできません。
また、法務局の担当者が入院先の病院や施設まで出張してくれる制度もありません。そのため、病気やけがなどなんらかの事情で法務局まで出向くことができない人は、この制度の利用ができないことを知っておきましょう。
一方、公正証書遺言の作成に当たっては、公証人の出張を受けることが可能な場合があります。そのため、病気等でどうしても外出が難しい場合には、公正証書遺言を作成することも検討するとよいでしょう。
まとめ
自筆証書遺言書の保管制度を利用することで、従来の自筆証書遺言書のデメリットを大きく減じることが可能となります。そのため、自筆証書遺言書を作成する際には、保管制度の利用を前向きに検討するとよいでしょう。
しかし、保管制度を利用したからといって、法務局が遺言書の内容まで踏み込んだアドバイスをしてくれるわけではありません。将来に問題を残さない遺言書を作成したい場合には、弁護士の助言を受けながら遺言書を作成することをおすすめします。
堅田 勇気
Authense法律事務所