(※写真はイメージです/PIXTA)

多様で自由な働き方を推奨する時代背景から、「複業」という働き方へ注目が集まっています。しかし複業は、はじめ方を間違えれば自分に合った複業先に出会えないばかりか、本業にも迷惑がかかる恐れがあります。大林尚朝氏の著書『スキルマッチング型複業(副業)の実践書』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、解説します。

複業は、本業の上司や同僚に「しっかり伝えた上で」はじめよう

複業をはじめる前に、本業の就業規則を必ず確認しましょう。あなたが所属する企業のルールには何と書いてありますか? 許可条件や出さなければならない届け出はありますか? 禁止されている場合、どのような活動が禁止されていますか?

 

皆様の中には隠れて複業(伏業)をしたいと思っている人がいらっしゃるかもしれません。複業をしていると伝えることで、上司から嫌われないか、本業の手を抜いていると思われるのではないか、不安になるケースを耳にすることがあります。しかし、私はむしろ逆だと思っています。

 

大前提として、本業以外での活動を禁止している企業で無断で複業を行うことは服務規程違反にあたり、懲戒解雇事由に該当することがあります。届け出が必要なケースや条件付き容認のケースでも同様です。

 

自分の金銭報酬、非金銭報酬のために複業をはじめたにもかかわらず、本業の職を失ってしまったら意味がありません。

 

その上で本業の上司や同僚へしっかりと「伝える」ことが「複業の成果最大化」につながります。複業の目的を明確にし、思考を整理できたら、その想いをしっかりと上司など信頼できる社内の人に伝えることを強くオススメします。

 

例えば、自身のスキルアップを目的に複業をはじめる場合、複業先で得たスキルが本業での業務改善や成果向上につながり、本業に還元できるでしょう。自身のスキルアップという目的は、直接的/間接的に本業にも良い影響を及ぼすのです。

 

複業は本業にも活きるものであり、リスキリングにもつながります。つまり、会社や上司にとっても非常にメリットがある挑戦です。もちろん、組織内の立ち位置や関係性などがあるとは思いますが、私はむしろ正々堂々と言わないほうが損をすると思っています。

 

誰にも伝えず、隠れて複業をはじめ、本業に迷惑をかけてしまうのか、周囲の人へ覚悟と想いを伝え、複業を全力で行い成果につなげるのか、この違いが複業の目的の達成度合いと密接に関わってきます。

 

最低限のルールを守り、できることであれば、堂々と複業をはじめましょう。

ただし、会社によって「認められる複業」の基準・条件は異なる

一方で、複業制度や条件・仕組みは個社ごとに異なるのが現状です。従業員はそれぞれ異なる基準を正確に把握し、違反しないように取り組まなければなりません。

 

例えば、複業をするための条件があるケース、届け出が欠かせないケース、金銭報酬を受け取らないボランティアでの複業は容認されているケース、利益相反の範囲が広く設定されているケースなどさまざまです。

 

できないと思ってやらずにいたら、実は容認されていたなんてケースは非常にもったいないでしょう。逆もしかり、届け出を忘れ、禁止事項に抵触してしまう危険性もあります。あなたの会社の就業規則や規定を確認してから複業をはじめましょう。

 

よくある質問の1つに、競業避止義務においてどこまでが「競合」にあたるのか、ということがあります。競合や同業他社という表現をすることが多いこの条件ですが、定義は個社によって異なります。また、複業をすることで利益相反にあたらないか、こちらも確認が必要です。例えば、本業で取引のある企業で複業をする多くのケースは利益相反にあたるため制限されています。自己判断をせず、必ず応募の前に確認をしましょう。

「複業NGの会社」はなぜ解禁・容認に踏み切れないのか?

皆様の中には、現状、勤務する会社が複業を許可していないというケースもあるでしょう。企業が解禁・容認に踏み切れない理由は「①情報漏洩のリスク」「②人材流出の懸念」「③労務管理の煩雑さ」の主に3つと言われています。

 

まず、「①情報漏洩のリスク」です。複業先に自社の機密情報が漏れてしまうのではないか、企業はこのリスクを恐れています。しかし、情報漏洩に関しては、複業をしていてもしていなくても普段から意識するべき事項です。例えば、居酒屋やレストランで上司と部下が話す会話も情報の塊です。複業をする以前に、まずは日常生活におけるコンプライアンス意識を高める必要があると言えます。

 

次に、「②人材流出の懸念」です。複業を解禁し、外で働き始めることで従業員が複業先に転職してしまうのではないか、そのような懸念を指します。

 

しかし、私は複業を従業員に認めることこそが転職を防ぐための手段だと考えます。急速なオンライン化や働き方改革により、時間に縛られない自己実現が可能となり、本来やりたかったことに挑戦しやすい世の中になりつつあります。そして可処分時間が増えたことにより、自分の思考に当てられる時間が多くなりました。

 

その中でまず考えるのは、今の自分の仕事は本当に自分に合っているのか?本当にやりたいことはこれなのか? 今の会社に所属し続けることができるのか? ということではないでしょうか。

 

本稿を読む皆様の中にも、自分の将来や会社に対する危機意識をもつ人は多くいることでしょう。そんな時代背景の中で「これが自分のやりたいことだ!」と思ったときに、転職の選択肢しかなければ、会社を辞めるしかありません。それは会社にとってのリスクです。だからこそ企業は社員が自分のやりたいことをまずは複業で実現できる環境を整えるべきです。退職や転職といった大きな環境変化を伴わずにチャレンジできる複業。それができる環境があれば、転職をしなくてもよくなるわけです。

 

最後に、「③労務管理の煩雑さ」です。企業は従業員の過重労働を防ぐ義務があり、複業解禁によって管理コストが上昇するという懸念です。

 

しかし、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によると、「従業員が他社から業務委託を請け負っている場合、労働基準法の適用から除外され、本業先と業務委託先の労働時間は通算されない」と記載があります(※厚生労働省、2020年、副業・兼業の促進に関するガイドライン)。

 

制度設計はまだまだ足りていない部分も多くありますが、労務管理の負担は思うほど重くはありません。

 

このように、企業が複業を解禁しない理由が少なくなっている現在、皆様が複業しやすくなる時代はもう目の前まで迫っているのです。

 

 

大林 尚朝

複業エバンジェリスト

株式会社Another works 代表取締役

 

1992年生まれ、大分県出身。早稲田大学法学部卒業。

2015年、パソナグループ入社。顧問やフリーランスなど業務委託人材紹介の新規事業に従事。年間最優秀賞など多数受賞。2018年、株式会社ビズリーチ(現.ビジョナル株式会社)入社。M&Aプラットフォームの事業立ち上げを行う。

2019年、株式会社Another works創業。複業したい個人と企業や自治体を繋ぐ、成功報酬無料の総合型複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を開発・運営。創業4年で累計1,000社以上が導入、50,000名以上が登録、70自治体以上と複業での地域活性に係る連携協定を締結、テレビや新聞など400件以上の掲載実績を誇る。

複業、経営・組織戦略、キャリア構築、地域活性をテーマに発信し、行政や教育機関をはじめ100件以上に登壇、「日本経済新聞」など多数のメディアでも取り上げられている。

 

※本連載は、大林尚朝氏の著書『スキルマッチング型複業(副業)の実践書』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

スキルマッチング型複業(副業)の実践書

スキルマッチング型複業(副業)の実践書

大林 尚朝

日本能率協会マネジメントセンター

1,000社・50,000名以上の複業を支えるプラットフォーム経営者が書き上げたスキルマッチング型複業の実践書! 「複業」とは、「複数の企業や行政などで、スキルを活かして働く」あるいは「新しいスキルを、そのスキルを求め…

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